第7話 結末

 夕暮れに染まる小さな公園は、俺を含む四人しかいない。俺たちの通う学校の近くにあるこの公園は、小さな道路に面してはいるが、生い茂った木々に囲まれ閉鎖的な雰囲気を醸し出している。故にあまり人が集まらないのかもしれない。

 

 俺は公園の端にある自動販売機に向かった。その自動販売機であたたかい缶コーヒーを選択しボタンを押す。微糖が志向である。俺もいずれブラックが飲めるような大人に成るのだろうか。そういえば古田に奢ってもらう約束していたのだった。買ってしまって気付いた。まあそれは今度でいいか。

 

 その場で缶コーヒーを開け、少し口をつけながらベンチの傍にいる三人の方を見やる。

 

 町田小春を中心に桜木と古田が立っている。すると、桜木が何やら話し、それを町田が小さく頷きながら聞いている。ここからでは何を話しているのかは聞こえてこない。俺はまだ熱くて飲み干せそうにない缶コーヒーを片手に、三人のところへ向かった。


 別に今日この場に来る必要があるわけではないが、可能ならば早いうちに片付けておいた方がいい。今後どういう流れになるのかは分からないのだから。

 

 そうしてこの公園に神田早紀を呼んだ。町田に連絡を取ってもらい、ここで待ち合わせることになったのだ。連絡を取った際に神田は家にいるのかどこにいるのか分からなかったが、どうやらアポイントは取れたようだ。


 神田早紀は、この公園で待っているのが自分を呼んだ町田小春だけと思っていたのだろう。俺たちの姿を見つけると、少し警戒するように近づいてきた。


 姿をギリギリ視認できる場所からでも分かるほどスタイルが良い。スラっと伸びた足に小さな顔。前髪を残して長い後ろ髪をうなじより高い場所で束ねている。吹奏楽部より、運動部のような感じの女子だ。なるほど、一部の女子の中には彼女をよく思わないタイプもいるかもしれないと思う。タイプは異なるが、桜木と同じように周りから一目置かれる部類に属するであろう。


「いきなり呼び出してごめんなさい。少しいいかしら」


 不信感を与えないように詫びから入って、桜木が初めに話しかける。桜木は状況をよく理解し、それを言葉や行動に移すことのできる人間であると、今日一日関わってみて、俺はそういった感想を持った。


 神田は一度町田の方を見て、残りの三人を見渡す。町田だけではなかったのが予想外だっただろう。しかしそれを勘付かせないほど平然としている。


「あなたたち生徒会の方たちかしら」


 神田が答え、それを聞き俺たちは頷く。正しくは俺は生徒会ではない。しかし、ここで話が逸れるのはどうかと思い同調する。神田は、相手を見定めるかのような警戒心を桜木に対して抱いているのを感じた。


「あの時の状況について何か聞きにきたの?」


 無駄な会話は挟まず、要点だけを話す口調で神田は続けて言った。彼女は、俺たちがサックスを壊された件について話をしに来たのだと理解している。


「いえ、状況なんかは大体わかったのでその辺りはもう大丈夫よ」


 意外な答えだったのだろうか。話を聞きに来ただけではないのかと思っているようだ。神田は少し戸惑った様子で質問する。


「犯人が分かったってこと?」


「ええ、そうよ」


 間髪を入れずに返答する桜木に、少々驚きつつ一拍を置くも、神田はスッと覚悟を決めた目で桜木を見た。


「そう……。小春から話を聞いたんだね。じゃあ生徒会としてちゃんと対処してくれる?」


「それはもちろんよ」

 

「それじゃああの二人の処遇は任せたわ」


 神田は、自分から用件を言おうとしない桜木にイラついているのか、ぶっきらぼうに聞こえる口調で言った。


「何の罪でかしら」


「え? 何のってそれは……いじめをしていたことよ」


 想定していなかった事を淡々と答える桜木を相手に、神田は言い淀んだ。そしてそれは会話のペースが桜木に移ることを意味した。


「それはそうね。あとは何があるのかしら」


「それとサックスが壊されたことも罪になるでしょ」


「それはあなたがやったことでしょう?」


「え?」


 それは俺と桜木以外の三人が発した言葉だった。俺と桜木はサックスを壊したであろう人物が神田早紀自身であることに気付いていた。しかしこの公園に来るまでの間、俺と桜木が辿り着いた答えを古田と町田には伝えていなかった。俺は単に言ってなかっただけだが、桜木はそれなりの理由があるかもしれない。右手に持つ缶コーヒーの温度が変化するのを感じた。

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