第3話

「ファウスト、意外な再就職先。『魔王を倒したら勇者は卒業だな』なんて言っていたけど、こんなところにいたんだ」


 ギルドの受付カウンターにファウストが座り、すっかり馴染み始めた頃。

 ひょっこりと顔を見せた紫紺の魔導士のローブの青年が、ファウストに向かって声をかけた。


「いや~、魔王がいなくってもモンスターはまだ活動しているし、ギルドも稼働しているわけだけど……。世界各地回っている間色々目にしていて、気になっちゃって。なんで受付には受付『嬢』しかいないんだろうなって。最果ての街あたりだと、受付嬢の中にも凄腕冒険者上がりなんかがいて、客になめた言動許さないで立ち向かっていたけど……。どうもね。泣き寝入りしているひとも多そうだったから」


 さばさばした調子で、ファウストが応じる。

 魔導士の青年は、青い瞳を輝かせて、面白そうに笑った。


「ファウストが楽しそうで良かった。どこにいても元気でいてくれるなら、それで俺は良いよ。そのうち第二、第三の魔王が、なんて話になったときには、また声かけにくるから」

「あるかな、そんなこと」

「無いとは言い切れない」

「俺、勇者は卒業したんだけどな。女神も二回続けて俺を指名するのは勘弁してくれないかな~。いまのこの仕事、千客万来で気に入ってるし。マジでいろんなひとがきて、面白いぞ」

「へえ?」


 顔を見合わせて、笑い合う。

 そこに「あの~」と少女の声が響いた。

 二人が同時に目を向けた先には、奇妙な服装の少女がひとり。上衣もズボンも見慣れぬ形状。背に流した黒髪に、黒い瞳の美しい少女。妙におさまりの悪い顔をして、カウンター奥のファウストに視線を定めてきた。


「ギルドの登録をしてほしくて、ですね。あの、数年以内に魔王が復活するからそれまでにレベル上げしておきなさい、って女神様を名乗る女性に言われまして。なんかいろんなスキルもらっちゃったみたいなんですけど。あと空間収納術? そのへんギルドの受付で相談して、冒険者証を発行してもらわないといけないみたいで。ここで良いんですよね?」


 もぞもぞとしながら、要領を得ているような得ていないような説明。


(魔王? 女神様?)


 変な単語が出たなと思いながら、ファウストは「じゃあ職業やステータスを確認させてもらいますね」と声をかけて席を立った。


 ――少女がここではない異世界から女神によって呼ばれた、とんでもないチートスキル持ちの、職業「勇者」であり、魔王復活が冗談ではないと知れるのはこの少し先の話。


「……このスキルなら、Fランクからはじめてもすぐにランクはあげられそうだな。『勇者』が無事育つように、ギルドも精一杯応援させてもらう。ええと、パーティーを組むならそこにレベルカンストしている魔導士がいるから連れていっていい」


 かつて魔王討伐にともに向かった仲間の魔導士を少女に斡旋し、その成長を見守ることをギルド職員として約束する。いざというときはひそかに自分も手助けする心づもりながら――


 勇者を卒業してギルド受付に就職した元勇者は、今日もそこで、冒険者たちを待っている。





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なんでギルドの受付には受付「嬢」しかいないんですか?~SSSランクの元勇者、魔王討伐後ギルドに就職する~ 有沢真尋 @mahiroA

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