第31話 紅碧に贈る歌

 竹の座敷にて一波乱あった後、零無は桜の座敷へ戻った。

 紅碧の心配そうな顔を見つめて、彼は素直に謝った。


「御免な。紅碧べにみどり。一人にしてしまいすまなかった」

「無事ですか? 零無レムさん」

「ああ。俺は無傷だよ。大丈夫」


 紅碧はまだこの間の事が心の傷になってしまっているらしい。

 どうにかその傷を癒やす事はできないものかな。零無は考えた。そしてある歌を紅碧の為に贈る事にした。


「紅碧。君に贈りたい歌があるんだ。流行歌はやりうただけどね」

「流行歌ですか?」

「だけど、歌詞だけ聞いても癒やされると嬉しいな」

 

 零無が紅碧に贈る歌はこんな歌。


【私は君にとっての空でいたい】



君が旅立つ日は

いつもと同じ 

「じゃあね」と手を振った

まるで明日もまた

この街で会うみたいに


愛を信じるのは

自分にも負けないこと

夢が叶う日まで

笑顔のまま 星を見て

祈りを捧げ ここにいるから


私は君にとっての空でいたい

哀しみまでも包みこんで

いつでも見上げる時は

一人じゃないと

遠くで思えるように

帰る場所でありますように


君がいない街で

相変わらずに元気で過ごしてます

それが今 私に

できること そう思うから


どんな出来事にも

隠れている意味があるの

夢が消えかけても

自分らしくいてほしい

どんなときもここにいるから


涙を失くすほど 強くなくてもいい

疲れた心を 休ませてね

素敵な明日を願い 眠りについて

小さな子供のように


この広い世界はつながっている

白い雲は流れ 風になって

君のもとへ


私の声は届きますか?

あふれる気持ち 言えなかった

私は君にとっての空でいたい

哀しみまでも包みこんで

いつでも見上げる時は

一人じゃないと

遠くで思えるように

帰る場所であるように


私は君にとっての空でいたい

哀しみさえも包みこんで

いつでも見上げる空は

一つでつながっていると

近くで思えるように 


涙を失くすほど強くなくてもいい

疲れた心を 癒やしてね

私は君にとっての空でいたい

小さな子供のように

今は眠りについてね


帰る場所であるように


【終わり】



「どうした? 紅碧?」


 紅碧は涙を堪えきれないで零無に縋った。

 思わず彼の胸に抱かれる。


「私……私……」

「色々、思い出してしまったかな……?」


 そこで紅碧は子供のように泣きじゃくる。

 零無は無言で抱きしめる。

 そして彼女の顔を覗き込むと親指で涙を拭う。

 そのまま、紅碧の水揚げを始める。

 既に紅碧は紅い襦袢姿だった。

 零無は布団に彼女を抱いたまま移動すると、そのまま唇を重ねた。

 そして布団に仰向けで寝かせると、襦袢を外して、彼が覆いかぶさる。

 宵闇で白く映る紅碧の柔肌。

 零無は乳首を噛んで、舌を這わす。

 丁寧に舐めると掠れた喘ぎ声を上げる紅碧。

 彼は今度は手のひらを使ってふくらみを丁寧にもみほぐし、舌で乳首を舐める。

 そしてそのまま下へ、下半身へ向かう。

 そして零無は熱く見つめた。

 紅碧の咲き誇る花びらをじっくり堪能すると、禁じ手であろうが、自らの唇と舌で愛し始める。

 紅碧が思わず歓びの喘ぎ声を上げる。

 舌と鼻でくすぐりながら愛の蜜を味わう零無は、内側から何かが甦る感覚を覚える。

 そうだ……こうした夜があった。

 大事な女性ひととこうして想いを確かめあった。

 誰だろうか? 俺を愛してくれた人は誰?

 だが、今は紅碧に想いを込める。


「もう……もう……ダメっ!」


 紅碧が控えめに気をってしまった。

 これはやり過ぎたか。

 零無は口を離すと彼女の顔を覗き込む。


「すまない……気を遣ってしまったね。……嬉しいよ、紅碧」

「零無さん……!」

「もう少しだけ、君を味あわせてくれないかな?」

「私の切なく咲く花びらをあなたので満たして……!」

「ああ。いくよ」


 零無がふんどしを外すと浴衣もここで脱いで全部の肌を晒す。

 そして紅碧の花びらに当てて、鈍く貫く。


「ああッ…!」


 そして腰をゆっくり揺らす。

 彼女を抱き上げ、細い腰に腕を回し、巧みに彼女を上にさせた。

 紅碧が腰を艶めかしく動かす。

 悩ましげな喘ぎ声を上げながら、零無の両方の手のひらが彼女の胸を優しく揉む。

 零無も喘いだ。

 

「紅碧……君はいい女だよ」

「零無さんのすごい…! 奥まで届いてる…!」

「アッ! アッ…! 紅碧もすごいよ」


 天井に顔を仰ぐ紅碧を零無は抱きしめて、胸を貪るように舐めた。

 細い腰に腕を回し、力強く抱きしめて、腰を回す。

 薄暗い部屋が熱く切なく燃えていた。

 最早禁じ手の接吻も当たり前のように交わす。

 彼女は彼の肩に腕を絡めて、激しく抱かれる。

 束ねた髪の毛が乱れて咲きそうになっている。

 腰を動かす、回す、突き上げる。

 性運動をさせる度に、紅碧は適応して、零無に肌を密着させる。

 彼の興奮が最高潮を迎える。

 眼の輝きも、快楽に陶酔して、紅碧に彼は喘ぐように伝えた。


「もう…逝くよ…! 逝く! 紅碧…! もう俺は限界だよっ……!」

「零無さん! 零無さん!」

「ウウッ! ウウッ! もう、逝くっ!」


 彼女の咲き誇る花びらの中で彼は絶頂を味わった。

 彼の身体が痙攣するように震える。

 その目は紅碧をしっかり見つめて、唇は喘ぐように半開きになり、余韻に浸った……。

 最後は零無が紅碧の身体をきつく抱きしめて、その肌から香る汗の匂いと体臭を味わった。

 紅碧も零無の身体に両方の腕を絡めて、彼の汗に滲む身体を味わった。

 無言の間が少しあった後、彼らは笑顔になって、禁じ手だろうと何回目かの接吻を交わす。

 そうして零無は彼女から己の抜き去り、そして程よい疲れを感じて、布団に横になり微睡む。


「零無さん。あなたに抱かれて、私はそれでも幸せです……」


 紅い襦袢を羽織り、軽く身支度をすると、トイレに立った紅碧。

 そして姉花魁に習った通りに後始末をして、そして想う。


(あの歌があれば私は生きていけるかも知れない。零無さん。あなたがここを去る日まで私は生きていこうと想います……)


「ありがとう。零無さん」


 そうして、紅碧の水揚げも無事に終わり、零無は朝を迎える。

 汗に濡れた体は如何ともし難いが、これで立て込んだ仕事も終わったかな。

 彼はそのまま、中継先の今戸橋の【桜花の郷】へ戻り、そしてその先にて健太に会った。

 そして彼から零無は労いの言葉を贈られた。


『二度に渡る振袖新造の水揚げ、御苦労だった。君はいい幇間で、そしていい男なんだな。お陰で紅葉もみじの売上も好調そのものだ。本当にありがとう。桜華楼の楼主として君には礼を言うしかない。少ないがこれを受け取ってくれ。私からの礼金だ』


 手渡された財布の中には、零無が2回に渡り水揚げした礼金が入っていた。

 零無は大きく頷いて、髪型をもとに戻して、準礼装から着替えて、また大門の中の世界へと戻っていった。

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