第10話 桜華楼の日常
伊勢谷半蔵と
桜華楼の初回の客人、
桜華楼に来たのは伊勢谷が面白い場所へ連れて行ってやるとの事で興味本位で来たらしい。
初回という事で桜華楼も盛大に
初回だがそれでも相手となる遊女は2枚目花魁の
桜華楼の今は、看板花魁の
最近では振袖新造の
中尾裕二の宴の面倒は
彼は廻し方と呼ばれる若い衆で遊女の中には、「あの客は野暮だから行きたくない」と振る遊女もいる。そんな彼女らを何とかなだめるのが喜兵衛の役割なのだ。
宴は今の所は滞りなく順調に進んでいる。
しかし、何かと悶着があるのも遊廓であり……。
「お内所! 梅の間でお客さんが文句言ってるよ!」
「何て言ってるだい?」
「せっかく気分出しかけたのに小便を漏らしやがって! だってさ」
「仕方ない。私が出張るかね。喜兵衛は中尾さんの世話で手一杯だし」
「わざわざ内所が出張らなくとも、
「そう思ったならさっさとまわしな」
「はいはい。わかりましたよ」
その問題の梅の間では客人の一人が文句を言いまくる。
それを賢治という若い衆が聞き役として駆けつけた。
「も〜! 何だい!? こっちが気分出しかけた所で小便漏らしやがって!」
「申し訳ございません。しかしね。旦那。旦那衆の中にはこういうのを好む旦那も少なからず居るんですわ。さあさあ。気分転換に酒でも!」
「冗談じゃないよ! 俺は変態じゃないっての!!」
「わかっております。旦那。火の元、出元、火の用心!」
すると奥から遊女が申し訳程度に謝る。
「ごめんなさいねぇ」
「うるせえ! てめえなんか知らねぇってんだ」
「まぁまぁ、酒でも飲んで気分転換しましょ」
すると
妙子は見下した表情で遊女に釘を刺す。
「アンタはこれで何人の客を振ったんだい!? 座敷持ちから格下げするよ」
「あんな割床でするのは嫌だよ」
「だったら、さっさと廻しをしてきな! 客を取らないとここから出ていけないよ! 永遠にね」
「うるさい遣手婆だね」
遊女は捨て台詞を吐いて、他の廻しの客の下へと向かう。
妙子は腕を組んで、毒を吐いた。
「五月蝿く無かったらここの遣手婆は務まらないんだよ!」
そして松の間で盛り上がる座敷に目を向けた。
どうやら喜兵衛は上手くやってる様子だ。
しかしながらまだまだ彼女の仕事は山積み。
「お妙さん、あちらの部屋の客人が俺の所に女来ねえぞって」
「その客人の相手は?」
「
「紫紺は他の座敷に廻っているからね。どうにかしてその客人を
「へい。誰が宥めますか?」
「お前しか居ないだろう?
「あっしがですか!?」
「お前、桜華楼に何年勤めているんだい!?」
「もうかれこれ3年弱」
「なら客を宥めるのも若い衆の勤めだろうが。行ってきな!」
「へ、へい!」
「ったく。腰抜けだね、友吉は」
妙子は溜息をして細部を観る。
着物の乱れがあればその場で注意。
草履の乱れがあれば整えて、祭騒ぎのような喧騒の2階を周りながら、遣手部屋に戻り、煙草を吸った。
妙子は居住空間として遣手部屋を充てがわれている。そこで寝起きし、三度の食事も摂る。
「おしけでございます」
何処かで「おしけ」の声が掛かった。
床入りの時間だ。
遊女稼業の時間はこれからだ。
客の男を徹底的に満足させておやりよ?
妙子は薄い微笑みを浮かべて煙草を吸った。
「おしけでございます」
この言葉が来て、俺達の仕事が終わった事を告げられた。
今日だけでどれだけ騒いだのだろうか?
池さんも流石に喉が渇いているのか若い衆の喜兵衛にお茶を貰っている。
酒井も肩を回して凝ったように首を傾げる。
夏さんも肩を少し触れて凝り具合を診ている様子だ。
この日の最後は楓姐さんから祝儀袋を貰ってから長屋へ帰る。
楓姐さんの手からそれぞれの芸者衆に祝儀袋を手渡す。
俺に最後に手渡した後に楓姐さんは言った。
「明日の朝にうちの若い衆が
「は、はい。わかりました」
「それでは皆さん。本日もお疲れ様でした」
暖簾を潜り、仲の町の雑踏に戻る。
今宵も春の宵を売る女の廓を出れば、夜空には徐々に満ちていく月が見えた。
月夜に照らされながら、それ以上に明るい電飾の行灯に、照らされながら帰り道を歩く俺達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます