第3話 初めての酒宴
そうして酒宴を開く為に訪れた桜華楼の馴染みが酒宴15分前に登廊してきた。
彼の名前は
何も性に限った話でもない。時代の流行や服装、その時代の文化にも理解を示すという意味の好色なのだ。まさに人生を謳歌する男だった。彼はそうして桜華楼という妓楼を高く評価している。ここの楼主もまたなかなかの色男として有名で、この桜華楼はその楼主の妖しげな美貌が噂になって流行ったという逸話もある。
楼主の名前は
その楼主、稲葉諒が今、若い衆からある報告を受けていた。
「私に似ている
「
「
「口を揃えて『旦那様に似ている。見間違いじゃないよな』と」
「ふむ……」
楼主は煙管を咥えて考えを巡らした。
実に興味深い幇間だ。この眼で見てみたい気分になる。まあ、でもまだそいつの仕事ぶりは目撃していないのだ。仕事ぶりを見てからでもいい話だった。
「勇太。その幇間の仕事ぶりをよく観察するように他の若い衆に伝えておけ。有能な幇間ならいいがな」
「分かりました、旦那様」
勇太と呼ばれた若い衆は一言で表現するなら伝言役だ。通称『福助』。彼は様々な者達の伝令を伝える男性で、ヤクザ関係や女衒と呼ばれる人買いとの伝言もやり取りする。
風貌は何処にでもいる普通の人である。それが肝だった。普通の人なら怪しまれる要素も皆無である。なので伝言役として適性がある男性だった。
さて、伊勢谷半蔵が来ていよいよ酒宴が開始された。酒井の尺八が風情溢れる民謡を奏で、歌い手の池さんが民謡を唄う。合わせて
しばらくすると伊勢谷の馴染みの花魁が座敷に登場する。艶やかな着物を纏い伊勢谷の隣に座る。
するとここで芸者衆は零無が得意のお囃子を奏でる。切れの良い三味線とついつい手を叩きたくなるテンポの良いお囃子に、琴の夏さんも笑顔になってシンクロする。尺八の酒井もアドリブを入れてお囃子に花を添える。池さんの合いの手が絶妙に響く。
そうして2時間後、彼らは花魁と伊勢谷を気持ちよく送り出す。
しばらく休みを取ると、次の宴会へと向かう。
芸者衆は大いに唄い、そして得意の楽器を鳴らし、そして零無の顔は終始笑顔だった。
その様子を観る若い衆の男達は言った。
「本当に旦那様にそっくりだよな」
「三味線の腕も文句なしだな。あんなにいい幇間も見かけないぜ」
そうして無事、本日の宴をこなした芸者衆は気持ちよく客たちを寝床へ送り出し、そして最後に祝儀を楓から貰う。
「皆さん、お疲れ様でした。本日の宴をこなして頂いてありがとうございます。これは今回の祝儀でございます」
祝儀袋に入った報酬を皆は受け取る。それぞれに名前がきちんと書き込まれている。これなら祝儀を巡って喧嘩なぞしないで済む。
それぞれが祝儀を受け取ると桜華楼の暖簾を潜り、そして仲の町の雑踏に戻った。既に夜も深い。夜空を見上げれば月が浮かんでいる。春の空に優しく照らす三日月。
仲の町には桜も植えられ夜桜になっている。
その仲の町を揚屋町へ向けて帰る道すがら、今日の宴の感想を言い合う芸者衆。
「今夜の宴は何と言っても零無の三味線に尽きますね」
「景気のいいお囃子だった。周りの俺達も思わず気合が入ったよ」
「また零無さんとこうして座敷で仕事したいですね」
レムはそれに答える。
「そうだね。また、君たちと組めると嬉しいな」
揚屋町に戻ると、池本と夏村と表通りで別れた。彼女らの長屋に戻る。
「じゃあ私達はここで失礼しますね」
「お疲れ様でした! 酒井さん。零無さん」
「お疲れ様! 池さん。夏さん」
彼らが住む長屋に戻る。
そしてそれぞれの祝儀袋の中身を確認した。
随分と先方は奮発してくれたらしい。
彼らは、寝る前に酒を少し傾けて、寝床に入って、今日という一日を終わらせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます