第2話 桜華楼にて
その日の午後12時頃。昼ご飯を食べて一息ついていた時に、私達芸者衆を支える若い衆が伝言をしにきた。若い衆の身なりは普通のどこにでもいる普通の着物姿だった。
若い衆の話だと、それは京町二丁目の楼閣【桜華楼】にて酒宴があること。そこに向かうのは芸者二人とこの揚屋町の長屋にいる酒井と俺が指名された事を告げられた。
宴の準備に開始1時間半前には【桜華楼】に居なければならない。宴は15時頃からだ。そこそこ時間は迫って来ていた。
「という事は13時半頃には桜華楼にいないといけない訳だな」
「へい。今回の宴、宜しくお願いしやす」
「
「そうだな。酒井は何の楽器を扱えるんだ?」
「俺はこの尺八だな。三味線と合わせると風情があって良いんだぜ」
「へぇ。向こうの宴席でその腕、見させて貰うよ」
芸者達は池本さんと夏村さんが来るらしい。
それぞれが、池さんと夏さんと呼ばれる。呼び方も風情がある。
酒井は彼女らの事を見知っている様子だ。得意分野の芸の話をしてくれた。
「池さんは民謡の歌い手だし、夏さんは琴が弾けるし、本格的だね。こりゃあ桜華楼にどこぞのお大尽さんがやってきたのかな」
酒井は茶化すような感じで話した。
そうして準備をして、持っていくべき物を若い衆が持って桜華楼に向かうことになった。外の通りに池さんと夏さんもいる。
俺達芸者衆は二人一組で妓楼では行動を共にする。何故ならあくまで妓楼では遊女達が主役で芸者衆は引き立て役でしかない。その引き立て役が客の男だったり、遊女だったりに恋心を抱いて深い仲になると厄介な事態になる。故に二人一組でそれぞれの監視をするのだ。
池さんと夏さんは俺とは初対面だった。ここで挨拶を交わす。
「あなたが最近登録した
「夏村です。今晩はよろしくお願いします」
「ええ。レムです。御二方、よろしくお願いします」
「池さん、夏さん、久しぶり!」
「酒井さん、また景気のいい尺八、頼みます」
「レムの三味線も楽しみだね」
「では、皆様。桜華楼へ参りやしょうか?」
そうして仲の町を奥へ行くと京町二丁目にたどり着く。そこの中見世が【桜華楼】。中規模の妓楼だった。
暖簾には桜の紋様と共に桜華楼の文字がある。
暖簾を潜った先が今夜の俺達の仕事場。若い衆に連れられて暖簾を潜ると女主人みたいな人が奥から出て迎えてくれた。
「これは芸者衆の皆さん。今晩の宴の為にようこそおいでくださいました。どうぞ。こちらへおあがりください」
「今晩もよろしくお願いします」
「あら…?」
女主人は俺の顔を見るとまるで身内に会ったような顔をした。まるで知り合いに出会ったような顔だ。
しかし、それも一瞬だった。
彼女はまた笑顔になり、そして確認するように俺の名前を聞いた。
「初めてお会いする幇間さんですね。お名前は?」
「零無です。よろしくお願いします」
「零無さんね。よろしくお願いしますわ」
そうして桜華楼の中を歩く。
女主人と思われる人は俺達が今晩こなす酒宴の説明をしてくれた。
桜華楼の雰囲気は、流石、桜の名前をつけているだけに桜の紋様が特徴的だった。ここの商標は八重桜でそのマークが色々な場所に誇らしくあしらわれている。
建物自体はちょっとした洋館みたいな雰囲気。
しかし外観はそうだったが中は風情ある和室の雰囲気だったのだ。中も木製だし、しかし硝子とかはお洒落なステンドグラスなのは憎い演出だね。
するとここでの若い衆と呼ばれる男性が女主人に声をかけた。
「
「
「これから酒宴の説明を?」
「ああ。今夜の酒宴は馴染みの
「はい、姐さん」
「それから、友蔵」
あの人は楓姐さんというらしい。その楓姐さんは何やら耳打ちしていた。
なんとなく想ったのは俺のことかなと。楓姐さんは明らかに俺の姿に驚いていたからな。
「わかりました、姐さん」
「それでは行きましょうか?」
俺達芸者衆が案内されたのは2階の豪華な部屋だった。馴染みがいつも好んで使う部屋らしい。
酒宴準備の為に若い衆の男達が色々準備に追われている。
皆、桜華楼の
「今晩の酒宴は馴染みの伊勢谷さんの酒宴の他に、後2つの酒宴がございます。皆さんには今夜3つの酒宴に参加して頂きます」
「祝儀は伊勢谷さんの他、その2つの酒宴を開く馴染みさんから頂いておりますので、終わり次第、皆さんにお贈りさせて頂きます」
楓さんの説明が終わると俺達は準備に入った。
そうして、今宵の宴が始まる。
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