第3話 AI『サラ』

 ロードが終わったパソコンからシステム音声が鳴る。すると、真っ暗な画面から1人の少女が映し出された。画面に映った少女は長髪でお淑やかな見た目をし、凛とした目でこちらを見ていた。


「おはよう。サラ」

「おはようございます。真紘さんは今、学校からお帰りなされたところですか?」

「ああ。少し本屋に寄っていて帰るのが遅れた」


 画面に映る彼女は3年前に人工知能の研究していた真紘の父が残していったAIだ。


「それで前に話していた例の件については何か手がかりはあったか?」


 例の件とは真紘が探している異世界についてのことである。サラはインターネットに広がる数多の情報をとてつもない速さで閲覧することが可能であり、その能力で別世界への情報を探してもらっていた。


「サラっち!前おすすめした映画観てくれた?」


 大事な話をしている最中に優が話を遮る。


「はい。『地底人の侵略』観ましたよ。他の映画と比べて危機迫る描写を上手く演技されてていて素晴らしかったです」

「でしょ、でしょ!俳優さんが推しの演技派な人ばかりだからね。さすがサラっちは分かってるわね」

「地底からやってきた侵略者に襲われる中、敵である地底人に人間が恋をする場面は感動的でした」


 この二人が話している映画の内容があまりにも女子高校生が見るようなジャンルとはかけ離れている。最終的に敵の地底人と恋をするとは三流映画っぽさが滲み出ている。


「その話はそこまでにしろ。で、手がかりはあったのか?」

「核心に迫る物はありませんでしたが、興味深い都市伝説はありました」

「都市伝説?」

「最近都内で行方不明が多数あるそうです。その事件に対し、ネット掲示板で神隠しという風に噂されています」


 神隠しか。その名前はただネット掲示板の奴らが名付けただけだが、事件で行方不明になった者が異世界へ迷い込んでいるかもしれない。何の確証もないが、今の手がかりが無い状況が続くよりは少しでも可能性があるものは調べておいたほうが良いだろう。


「その事件について調べておいてくれないか?」

「はい。分かりました」


 新たな情報も手に入れ、ゆっくり買ってきた本でも読むことにした。


「あともう少しで夏休みかー」


 ソファーで両手を上げ、体を伸ばしながら優が言う。


「そういえばそうだったな」


 自分にとって夏休みは神話の研究や異世界の証明に使える有意義な時間だ。夏休みに入ったら古本屋巡りするのもありだな。


「ねぇ部活には戻ってこないの?」

「陸上部か?今はそんなことをしている暇はない。一刻も早く別世界への証明をしなければ誰かに先を越されてしまう」

「そっか………」

「それとは関係ないんだが、さっき言ってた映画のDVD………」


 俺の発言に反応し、優が目を見開いてこちらを見る。


「俺も観るから貸してくれないか?」

「いいよ!真紘がこの映画を観たいって言ってくれるなんて嬉しい!」

「ちょっと観たいと思っただけだ。すぐ返すから」

「何日でも貸してあげるよ。その代わりちゃんと感想聞かせてね!」


 皆で雑談をしていたら夜遅くになり、優は家に帰っていった。

 陸上部………懐かしいな。椅子にもたれかかり、天井を見つめる。俺が今していることを現実逃避という奴がいるかもしれないが、この証明が上手くいけば、そんな口も叩けまい。


「真紘さん。ぼーっとしてますよ。大丈夫ですか?」


 サラが声をかける。


「何もない。なぁ、少し聞いて良いか?」

「はい。なんでしょう」

「サラは異世界が存在すると思うか?」

「無い………と言ってしまえばそれまでですが、真紘さんがそれほど力を入れてお探しになるものなら、きっとあるのだと信じております」

「はは。慰めは無用だぞ。ラグナロクの戦いに比べれば、この程度造作もない」


 この俺であれば絶対見つけ出せる。あの世界を。

 

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Eternal World〜異世界の証明〜 織宮 景 @orimiya-kei

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