第2話 アルギュロスの鍵

 仮想現実というのはもう一つの現実。そして現実を超えてしまう代物だ。もし現実と見た目が全く変わりない仮想現実世界があったなら、君はその世界を仮想現実世界と見破れるか?答えを言おう、NOだ。迷い込めば決して帰ってくることはできない。それがあの世界だ。だが、君はこれから否応なくあの世界に直面するだろう。目の前に現れても決して行ってはならない。そうさ、これでいいんだ………これで。


「真紘。どうした?眉間に皺寄せちゃって」


 問いかける少女の体から部活の勲章により焼けた肌が目に入る。俺と少女は共に夕日に照らされる道を歩いていた。


「ん?少し考え事をしていてな。ここはどこなのかを」

「東京だろ?何言ってんだよ?」


 まだまだ未熟な少女は真の意味を理解していないようだ。少女の無知に対し軽く鼻で笑う。


「なんだよ?教えろよ。どういう意味か!」


 少女は顔を膨らませて問う。


「ならこの場所を仮に地点Aと名付けよう。だが、もう一つ全く同じ世界があるとすればどうだ?」

 

 理解できない少女は首を傾げる。この崇高な考えが分からないとはまだまだだな。呆れた俺は両肩を上げた。


「その世界にはこの地点と全く同じの地点A’(ダッシュ)があるってことだ。もしもう一つの世界、そうだな世界’と名付けよう。そこがこの場所と同じ風景であれば元いた世界と見分けれるか?」


 俺の質問に対して考え込む少女。


「ん〜〜〜。無理かな?」

「つまりそういうことだ。ここがさっき言った地点A’の可能性を考えていたんだ」


 また考え込む少女だったが、今回は何か閃いたようだ。


「だったら、真紘と同じ人がここにいるってことか?」


 いつもの少女に比べると珍しく的を得た質問だ。


「ああ。そして俺の目的はそいつを連れてきて世界に向けて発信するのさ。この世界は二つあるってな」


 ドッペルゲンガーの話を聞いた少女は少し不安げな表情になる。


「でもなんかで自分と見た目が同じやつと会うと死ぬって聞いたことがあるけど大丈夫なのか?もし真紘に何かあったら………」

「あんなの何の根拠もない都市伝説さ。大丈夫だ」


 大いなる目的にはそれ相応の危険がついてくることは承知だ。

 だが俺は世界’………いやパンドラ世界の存在を証明しなければならないのだ。それが我が宿命!

 




 近道である都会の裏道を利用し、数分歩くと、平凡な4階建てマンションに着いた。

 

「誰もここが我らの拠点とは気付かんだろう。全てを見かけで判断してる奴らには分かるまい」

「何言ってるんだよ。とっとと入るぞ」


 マンション内に入り、管理人室前に行く。ここで秘宝の一つであるアルギュロスの鍵の力を借りる。


「何を自慢げに見せびらかしてるんだ。ただの管理人室の鍵だろ」

「分からないのかぁ。まだこの鍵の真の力は隠されているのだ」


 鍵を片手で掲げ、決めポーズをとった後、管理人室の扉を開ける。

 そこは大きな机とタンスが並んだ事務所のような部屋。

 だがこれはフェイク。真というものは隠されているのだ。俺は極秘の場所へ行くために机を押すがびくともしない。


「なんでこれぐらい動かせないんだよ。最近運動してるか?」

「ふっ。前世のラグナロクの戦いで体を酷使したせいか全力を出せなくてな………」

「へぇ〜。何の神なんだよ」

「今は訳あってオーラを隠しているが、我の前世は知の神、オーディンッ!」


 決めポーズをし、自分の正体を明らかにしたが、少女はただため息をつくのみ。


「もう………仕方ねぇな」


 少女は細い腕からは想像できないほどの力で机が押していく。その机の下にはカーペットが敷かれ、それを捲ると地面から下へ繋がる扉が露わになった。


「よし!我らの理想郷へ向かうぞ!」


 俺達は梯子を降りていき、暗闇の地へ向かう。

 目的の場所まで降り、真っ暗な中、手慣れた手つきで照明のスイッチを押す。灯がつくと多くのパソコンや一般では出回らないような機械が現れた。そう。ここが我らの理想郷への原点である。


「また古本屋で変なの買って。意味あるのか?」


 制鞄から幾つかの本を取り出していく俺を見て嫌な視線を送る。まるで親が子供に接するような態度だ。


「これは異世界への存在を証明するための重要な文献なのだ。決して無意味な代物ではない」


 ふーんと少女に聞き流された。気を取り戻し、極秘の任務を行う。パソコンの画面端のファイルからソフトを出し、立ち上げる。何秒かロード画面が表示された後に、彼女が起動した。


「ロード完了。人工知能システム『サラ』起動」

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