Eternal World〜異世界の証明〜

織宮 景

第1話 別れの音

 セミがよく鳴く時期。涼しい風鈴の音色が病室で聞こえる。

 そこには学生服を着た少女と少女の母がベッドで横になっていた。


「代々引き継いできたあのソフトをあなたが完成させて」

「そんなの無理よ。お母さんのように頑丈なセキュリティソフトも作れないし、お姉ちゃんみたいにプログラミングが長けてるわけでもない」


 お母さんが泣きそうな表情をし、少女の顔の頬に手を当てる。


「ごめんね、舞。私がずっとあなたを見てあげられなくて」


 その一言を言い、お母さんの手が離れる。聞こえるのはモニターの心電図から発される耳鳴りのような音のみ。少女は膝から崩れ落ち、泣き喚く。


 1ヶ月後ーーーー

 母の葬式の日。

 舞は葬式の受付を任されていた。雨の中、弔問客は傘を持ちながら挨拶をする。挨拶をする中、1人のおばさんが舞に声をかける。


「お母さん、あなたのこと可愛がってたからいなくなって寂しいでしょ。おばあさんのこともあったし、何か辛いことがあったらいつでも声かけて」


 慰めの言葉をもらい、くぐもった声で「はい」と伝える舞。

 受付を済ませ、舞は寺の中でお経を聞いていた。耳に入る僧侶のお経に現実を見ろと告げられている感覚に陥る。気づくと線香の順番が舞まで回ってきた。舞は立ち上がって線香の場所まで向かうが、そこまでの距離が遠く感じる。

 長い道のりを歩き、線香の前まで行くと、棺桶の窓から見える母の顔と対面した。すると現実を受け止め切れないのか手が震え出す。

 だが勇気を出し、手の震えを止め、線香を終えた。その煙の匂いは海馬に沁みるものだった。

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