3話 モブ宇宙人のためのカボチャの冷製スープ

 人々が空を見上げる中、巨大UFOが見下ろしていた。

乗っているのはいかにもなグレイ型宇宙人。

「ワレワレハコノホシヲシンリャク…」

宇宙人の親玉は高らかに宣言した。

同じ空間にいるものの、かなり奥まった所で聞いているのが僕だ。

セリフはなく、同じ見た目の同胞と佇んでいるだけのモブ宇宙人。

「この星は俺たちが守る」

主役のスペースヒーローの攻撃が続き、撃墜されるまで後数秒。

そう思っている間に、船内では火花が散っている。

このシーンが僕の最大に見せ場だ。

タコみたいな手を動かして恐怖を精一杯演出する。

自分でもびっくりするほど切迫した感が出ない。


クソっ!もっと演技力があればいいのに。


だけど、先輩モブ宇宙人キャラの言葉を思い出した。


『いいか。僕らはポンコツ宇宙人キャラだ。つまりゆるキャラ枠』


下手でも許される…。


その言葉に僕がどれだけ救われたか。

だから今日もゆるめにモブ宇宙人キャラを全うした。


意気揚々と僕は暗転した宇宙船を後にして待機ルームに急ぐ。

部屋を開けた途端、生暖かい風が通り抜ける。ツルツルのボディに汗が噴き出してくる。


南国だって?

僕は暑いのが苦手なんだ。


素早くルームのシステムを和室に変える。

「ヤッパリタタミハイイ」

触手を動かして喜びを表現する。

誰もいないのが残念だ。

モブキャラ専用食堂で買ったカボチャの冷製スープを皿に流し込む。

色鮮やかなオレンジが僕の丸い瞳を引き付ける。


以前、モブ貴族令嬢さんが、

『宇宙人さんはスープがお好きですね』


と言っていたが、それは違う。僕のような宇宙人キャラは歯がない。つまり液体物した口にできない。さらに体温調整も下手だから基本冷たい物しか食べられない。

おのずと主食は限られてくるだけた。

だが、冷製スープといえど、侮ってはいけない。奥が深いのだ。

今回チョイスしたスープは初代宇宙人モブキャラが考案したモブ宇宙人のためのカボチャの冷製スープだ。

小さな口の中に流し込めば、甘いカボチャとひんやりした感触が喉を通り抜けていく。

いつまでも食べていられる絶妙なお味だ。

生ムリームのアクセントも聞いている。

パセリを加えてあるのもポイントだ。

次の出番までまだしばらくかかる。

このスープとの時間をもう少し味わっていよう。

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