2話 やられモブキャラ秘伝カレー

「この俺に喧嘩売る気か?身の程知らずが!」

 対峙するヒーローに向かって高らかに宣言したのは微妙な顔立ちの青年。

いかにも自分の勝利を確信しているバカ者。

「いくぜ!」

剣を抜いて素早く間合いを詰めるも、誰が見てもかっこいいヒーローの魔法で地面に叩きつけられる。

「こっ古代魔法だと…」

それが僕に与えられた最後のセリフ。


噛まずに言えた。ホッと息を撫でおろす。


父さん…貴方からやられ役専門モブキャラを継承して早2年。

やっとコツを掴めてきたように思います。

今日は盛大に血を流して倒れる事が出来ました。

心配しないでください。僕は元気にやっています。


 父へ感謝を心にとめる中でも颯爽と去っていくヒーローの後ろ姿はキマっていた。

僕はひたすら気絶して、伝説の始まりとなる重要シーンが終わるのを待つ。

画面が切り替わるまで後、数秒だ。


「お疲れさまでした」

僕のシーンはこれで終わりだ。元気よく挨拶をして速やかに画面から消える。

向い先は一つだ。

「今日のメシは絶対美味いだろうな」

自然と顔が緩む。



 宇宙船チックな待機ルームを南国にシフトチェンジして砂浜に座る。

僕の前には湯気が立ち込めるカレー。


『いいか?このカレーはやられモブキャラに伝わる伝説のカレーだ。これを食べれば無事ヒーローに倒してもらえる』

父の言葉は今でも胸にとめている。

「僕もこのやられモブキャラ秘伝カレーで無事、ヒーローに倒され続けます」

立ち込めるスパイスの香りが体中を駆け巡る。

ゴロゴロとした牛肉とにんじん、じゃがいも…。そして中辛が僕の好みだ。

後は福神漬けを添えれば完璧だ。


さっそく、大きめのスプーンを取り出してルーとホカホカごはんを一緒に口に放り込めば、ピリッとした刺激が駆け抜けていく。

「超うまい!」

どんどんごはんが進む。

僕はホログラムの海を眺めつつ、食事を楽しんでいた。

ふと、蜃気楼のように揺らめくカツサンドが視界に入る。

思わず手を伸ばすと、皿ごとカツサンドは砂浜に落ちてしまう。

「もったいないな…」

誰だか知らないが、残すなんてありえない!

バラバラに散らばったカツサンドを拾い上げカレーの中に突っ込む。

「うん。今度はカツカレーを楽しもう…」


父さん、今日は実にツイている日です。

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