第37話 僕とクリスマス④


『誰がためにベルは鳴る。』という作品はとある少年と、サンタクロースである少女の物語だった。


 サンタクロースというだけあって作中の季節は冬だし、何ならクリスマスだしでこの時期に観るにはもってこいの内容である。


 クリスマスに起こる奇跡、少年のたった一つの願いとは。そんなキャッチコピーだったのを覚えているが、その答えは映画を観れば分かり、ほへーなるほどねって感じの感想を抱く。


 ラブコメディに全振りしているわけではなく、かといって完全なファンタジーでもないので、内容に派手さはなく少年とサンタクロースの交流がメインとなっているため淡々と話が進んでいく。


 物語の最後にはひと盛り上がりあったけど、綾瀬さんや五十嵐さんの好みから言えば、確かに合わないかも。


 僕はこういう話も嫌いではないので、普通に楽しめた。


 映画が終わり、劇場内が明るくなる。隣の宮村さんを見てみると、号泣まではいかないが目をうるうるさせていた。


「大丈夫ですか?」


「うん。ちょっと泣けたね」


 あはは、と笑いながら目尻に溜まった涙を拭う宮村さん。あまり見ない方がいいだろうか。


 出口に人がいたので席で少し待つ。

 その時間で宮村さんも落ち着いたようで、劇場を出る頃にはすっかりいつも通りだった。


「お腹どうですか?」


 朝はエナジードリンクを飲んだだけで、上映中にポップコーンをつまんでいたけどわりとお腹は空いている。


「空いた。ぺこぺこ!」


 結局ポップコーンはほぼ僕が食べたんだよな。朝ご飯を食べていたとしてもこの時間なら普通に空いているか。


 スイーツパラダイスはスイーツの他に軽食も食べ放題らしい。つまりバイキングと同じなのでお腹は空いてるに越したことはない。


「それじゃあ行きましょうか。今日のメインイベントに」


「うん。楽しみにしてたんだ」


 わくわくした様子の宮村さん。

 スイーツパラダイスは映画館を出てすぐのところにある。


 入口から中が少し見えるけど、めちゃくちゃハートが壁に飾られてある。自動ドアを開けて中に入るとさらにハートとピンク。

 

 お昼時は過ぎ、おやつの時間には少し早い時間だからか二組しか並んでいなかった。


 カップル……かは分からないが、二組とも男女のペアだ。クリスマスなのだし恋人だろうというのは安直な考えだ。

 僕と宮村さんがいい例。


「あんまり並んでないね」


「お昼を過ぎてるからですかね。映画観たのが混雑を避けるのにちょうどよかったのかも」


 なんてことを言いながら、僕は綾瀬さん五十嵐さんのアドバイスを思い出す。


『お昼にスイパラ行くのはいいけど混むんじゃないかなー。クリスマスだし、休日だし、冬休みだし』


『確かに。混んでるとうるさいしゆっくりできないね』


『どの時間帯も混んでるんだろうけど、お昼どきは避けたほうがいいかもね』


『映画を先に観に行ったらいいんじゃない? 昼過ぎに行きゃちょっとはマシでしょ』


 二人の言うとおりだった。

 お昼どきにどれだけ混んでいたかは想像つかないけど、確実に今よりは人が多かっただろうし。


 感謝である。


「あー、楽しみー」


 そこから待つこと二十分。

 ようやく僕らの順番が回ってきた。席に案内されシステムの説明を受ける。


 九十分食べ放題。

 コースはいくつかあったが、とりあえず一番いいコースにしておいたので置いてある料理もドリンクも全て問題なく食べれる。


「丸井はスイパラ来たことあるの?」


「あると思います?」


 こんなところ一人では確実に来れない。男友達とも来れるかと言われると勇気がいる。

 女の子が一緒なら来れるが女友達は残念ながらいない。


 結果、来ない。


「……まあ、そだね」


 変な空気になった。僕は悪くないと思うんだけど、何なら誰も悪くないんだろうけど。


「ほら、料理取りに行こ」


 その空気を感じてか、宮村さんが話を切り替える。

 

「あ、はい」


 あまりバイキングとかの類には来ないので、こうやって料理を取りに行くのはテンション上がるな。


 ショーケースの中にケーキが並んでいる。値段は結構リーズナブルだったので数種類くらいかと思っていたが、想像していた倍はあった。


 ショートケーキやチョコレートケーキといった定番は抑えつつ、見慣れないものもある。

 僕はこういうとき冒険はしないタイプなので結局オーソドックスなところに落ち着く。


 他にはカレーや麺類があった。

 麺類に関しては麺を入れ、それにトッピングするものを自分で選ぶシステムだ。

 スパゲッティやナポリタン、ラーメンにだってできる。これは楽しいぞやばい食べちゃう。


 そしてアイスクリーム。あとはポップコーンとバリエーション豊かで、あの値段でこれだけのものが食べれるのはすごいことだと思う。

 そりゃ人来るよ。


「とりあえずパスタでも食べようかな」


 ケーキはどうしてもデザートという感覚があるのでスタートからは食べれない。

 あとパスタとかと一緒に食べるのも気が引ける。


「もったいなくない? せっかくスイパラ来たんだしスイーツ食べないと」


「はあ」


 言いながら、宮村さんはショーケースの中からケーキを次々とお皿に置いていく。


 結局最後までおかずの類には手を付けなかった宮村さんはお皿にケーキをもりもり乗せて席に戻る。


 僕はミートソースパスタとラーメンを作って戻ることにした。一度の食事で様々な麺類を楽しめるというのは素晴らしい。

 スイーツパラダイスというか麺類パラダイスだ。


 あとでペペロンチーノも食べよう。

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