第17話 僕と休日②
君色景色という作品は簡単に言えば二人の女の子が主人公の男の子を取り合うラブコメディだ。
幼馴染みと学園のアイドル。二人ともがメインヒロインとされており、扱い的にも差がないのでどちらのヒロインが彼女の座を手に入れるのかが読めない。
というコンセプトのもと、幼馴染みの勝利という形で完結したのだが、今回の映画はイフの物語ということで学園のアイドルが選ばれていたら? という内容らしい。
いわゆるマルチエンディングという形となり、その形式をよく思わない層も一定数はいるだろうが、僕は全然大丈夫な人間なので本当に楽しみだ。
何なら人気だけで言えば幼馴染みよりも学園のアイドルの方があっただろうから、待ち望んでいるファンはきっと多い。
そんな君色景色の映画が公開された。初日から大勢のお客さんが入り、好調な滑り出しを見せた。
そして、その翌日のこと。
僕は駅の改札を出たところで壁にもたれかかり、スマホをいじる。遅れてはいけないと思い、時間よりも随分早く到着してしまった。
今日、僕は宮村さんと五十嵐さんと一緒に君色景色の映画を観ることになっていた。
宮村さんは漫画を読み、それなりに面白いと感じてくれたようで、一緒に映画を観ることになった。
さすがに五十嵐さんも僕と二人だと観に行こうとは思わなかっただろうから、その辺も気を遣ってくれたのかもしれない。
いや、もっというと二人でいくもんだと思っていた。
『結構良かったから映画行こうよ』
『お、さなちはやっぱセンスあるね』
『これでも恋愛ものとかは結構好きなんだよ』
『ということらしいけど、まるっちはいつが暇?』
『え、僕もですか?』
『もちでしょー』
『僕はいつでも大丈夫ですけど』
『一応訊くけど、えりぴは』
『行かないわよ』
バッサリ断ってたなあ。
女子ってとりあえず同意から入るイメージ強いから新鮮だった。
でもそこにあの三人の馴れ合いではない感じがあって、僕は良いと思っている。
興味のないことは興味がないと断り、無理して付き合ったりはしない。あれは人付き合いにおいて理想的な関係だ。
「……服、変じゃないかな」
誰かと出掛ける機会なんて一切なかったから、服なんて気にしたことなかった。
分からなさすぎて制服着てこようか本気で迷ったくらいだ。
結局白のシャツにジーンズ穿いていれば及第点だとネットに書いてあったのでそれに従った。
高校に入ってからどころか、中学のときを合わせても女子と出掛けるのは今回が初だ。
上手くアプローチできるとは微塵も思っていないので、せめて一緒にいる二人に恥をかかせないよう注意しよう。
そんなことを考えながら、待つこと十五分。駅の改札から見知った顔がこちらに向かってきていた。
「お、まるっち早いねー」
五十嵐さんだ。
黒のシャツにスカート、上から薄めの上着を羽織っており、その下にタイツと動きやすさを重視したような服装だ。
それがおしゃれかどうかの判断は僕にはできないが、少なくとも似合っているとは思う。
制服では感じない、胸の主張に僕の視線はついつい下がってしまう。なので無理やり上を向く。
「……どこ向いてるの?」
「空です。いい天気だなと思いまして」
本日快晴。絶好のお出掛け日和だ。
とりあえず天気の話をしておけば場が持つというが、本当にそうかもしれないな。
「さなちはまだ?」
「はい」
「そかそか。では女の子と遊び慣れていないであろうまるっちに私からアドバイスを授けよう」
「アドバイス、ですか?」
一体なんだと言うのか。
僕は胸に視線がいかないよう注意しながら五十嵐さんの方を見た。
「女の子と遊びに行くなら、まずは服装を褒めることだね」
「は、はあ」
「場所がどこであれ、誰と遊ぶとしても、出掛ける以上女の子というのは気合いを入れておしゃれをするものなんだよ。それを褒められて悪い気はしない」
「でも、僕に褒められても喜ばないのでは? お前がおしゃれの何を知ってんだよ、とか思われるのがオチですよ」
「めちゃくちゃ卑屈だねー」
いつもの調子で言っているのだろうけど、ちょっと引いてるような感じがした。
「服を評価するんじゃなくて、似合っていると言うだけだから、そこまで思う人はいないよ」
「でも、僕みたいなオタクに言われたら不快に思う可能性も」
「褒められて不快に思うような人と、休日にわざわざ遊ぼうとは思わないから大丈夫だと思うよ。私やえりぴならともかく、さなちはそんなこと絶対思わないだろうし」
二人は思うことあるのか。
綾瀬さんは態度に出るだけかもしれないけど、五十嵐さんとか普通に言ってきそうだなあ。真顔で。
「似合ってますね、その服」
「もう遅いっつーの」
くすり、と笑いながら五十嵐さんは僕の脇辺りを小突いてきた。
そんなことを話していると、改札からぞろぞろと人が溢れ出てくる。次の電車が到着したのだろう。
そして、時計を見ると間もなく待ち合わせの時間である。遅刻でなければこの電車に乗っているはずだ。
ということで宮村さんの姿を探していると、ちょうど僕らの姿を探していたっぽい宮村さんと目が合った。
彼女は手をぶんぶんと振りながら、こちらに駆け寄ってきた。もちろん僕は手を振り返すようなことはできない。
ちらと横を見ると、五十嵐さんも振り返してなかった。彼女はやはり、中々にドライだった。
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