第14話 僕とテスト勉強④


 時にはマックで。

 時には宮村さんの自宅で。

 またある時には学校で。


 テスト当日まで僕らはとにかく勉強を進めた。最初は乗り気ではなかった宮村さんだったが、日を重ねるごとに勉強に対する意欲が湧いていたのは驚きだ。


 勉強を楽しいものだと思ってもらうには苦労したが、問題が解ける楽しさを理解してもらえたようだ。


 そして、ようやく訪れるテスト当日。


「おー、なんか今回は落ち着いてるねー」


「あはは、まーね! しっかり勉強してきたから!」


 五十嵐さんの感心の声に宮村さんは胸を張る。確かに勉強はしたけど、その中でどれだけ身についたかは謎だ。


 なので、実際どれだけの点数が取れるかはやってみないと分からない。


「それは楽しみだ。ねえ、えりぴ?」


「そうね。マルオの力が試されるわ」


「え、それどういう意味?」


 にやにやしながら言う綾瀬さんに宮村さんが問う。確かに気になるところだ。

 おかげでテスト前の最後の復習に集中できないでいる。僕は自分の席に座りながら三人の会話に耳を傾けていた。


「沙苗の頭は本当に残念だからね。そんな沙苗が赤点を回避しようものなら、マルオの力が大したものだと認めざるを得ないってこと」


「あたしの努力は!?」


「……まあ、その次ってことで」


 ひどい言われようだ。

 でもそう言われてもおかしくないくらいには酷かったからなあ。二人の宮村さんに対する印象もあながち間違いではない。


「赤点ゼロだったらスイパラ奢りね?」


「ああ、いいよ。スイパラでもなんでも奢ったげるわ」


 ケタケタと笑いながら綾瀬さんは自分の席に戻っていく。

 テスト期間中は席の並びが出席番号順になる。綾瀬さんと五十嵐さんは席が前後だ。


 ちなみに僕の後ろの席が宮村さんの席である。なので会話が全て筒抜けだったのだ。


 だというにも関わらず、僕には一切絡んでこなかったところが実に綾瀬さんらしい。


 最近宮村さんと一緒にいることが多くて調子に乗っていたが、僕はあくまでもボッチであり、パシリでしかないのだ。


 そんなことを再認識した直後、一時間目を告げるチャイムが鳴る。いよいよテストが始まるのだ。


 それなりに勉強しているのでいつも緊張とかはしないけれど、今回は別の意味で少し緊張はしている。


 綾瀬さんの言っていたこととは違うけど、僕の力がどれだけ宮村さんの助けになったのかが問われるからだ。


 せっかく頼ってくれたのだ。できるだけ力になりたい。

 そしてあわよくば、次の機会があればと思っている。


 よろしくおねがいします、宮村さん!


「……」


 配られたテストと向き合い、ひたすら問題を解くが、その間もずっと後ろの宮村さんが気になっていた。


 ペンが動く音がすると思えば、暫く手が止まっているのもわかってしまう。その一つ一つにどきどきした。


 そんな感じで、テストはあっという間に終わりを迎える。


 そして、テストの答案返却の瞬間がやってくる。


 いつものことだが、答案返却の間は教室の中がやけにざわついている。無理もないが、どこからも「自信がない」だの「勉強してない」だの予防線を張る声が聞こえてくる。


 そんな中、


「今回はばっちりだよ。これはスイパラ確定だね」


 宮村さんは自信満々だった。


「へえ、そりゃ楽しみだ」


「もしさなちに点数負けたらどーする?」


 五十嵐さんが笑いながら言う。その言い方はそんな未来は訪れないと言っているように聞こえた。


「そのときは、あーしもマルオに勉強教わろっかな」


「ええ!?」


 綾瀬さんの言葉に宮村さんがガタガタと机を揺らす。分かりやすく動揺していた。


「なにそんな慌ててんの?」


「あ、いや、別に」


「さなちはまるっちがえりぴに取られるのが嫌なんだよね」


「そんなんじゃ……って、萌今なんて?」


「ほら、席つけ。テスト返すぞー」


 話途中で先生がやってくる。雑談を止め、皆が席に戻る。

 出席番号順に呼ばれていくので最初に答案を受け取るのは綾瀬さんだ。名前を呼ばれ、教卓へ向かう。


「……ふ」


 点数を見て、微かに笑みを浮かべる綾瀬さん。どうやら想像以上の出来だったようだ。


 そんな彼女の次に呼ばれるのは五十嵐さんだ。


「……」


 答案を受け取った五十嵐さんはどこか満足げな表情をしているように見えた。

 想像通りの点数だったのかな。

 綾瀬さんもそうだが、あの調子だと赤点ではないのだろう。


 次々と名前が呼ばれ、僕の番がやってくる。受け取った答案の点数は中々の高得点。

 宮村さんに勉強を教えることがいい感じに復習になったのか、過去最高の得点を叩き出した。


「次、宮村」


「はい!」


 この教室の中の誰よりも元気な声を出した宮村さんは自信満々に教卓へと向かう。


「まあ、よくやったんじゃないか」


「ですよね!」


「……ああ」


 先生の微妙なリアクションは目に入っていないのか、気にしない様子の宮村さんは席に戻りながら答案を確認する。


「……」


 答案から顔を上げた宮村さんはさっきまでと変わらない表情だったが、どこか固いようにも見える。


 そんな彼女はもう一度答案に視線を向けた。


「……」


 そして、徐々に真顔に変わっていく。


「あ、あの」


 隣を通った宮村さんに声をかけようとしたが、耳に入っていない様子。

 結構悪かったのかな。

 じゃあ最初のリアクションは何だったのか。


 その授業が終わった後、宮村さんの席に綾瀬さんと五十嵐さんが集まる。僕は三人の会話に耳を傾ける。


「どうだった? 沙苗」


「なんか変な顔してたけど」


「……思ってたより、悪かった」


 言いながら、宮村さんは二人に答案を見せた。そこは躊躇いなく見せるんだ。


「なんだ、赤点じゃないじゃん」


 綾瀬さんはつまらなさそうに、


「さなち史上最高得点じゃん」


 五十嵐さんは感心したように言った。


「何点だと思ってたわけ?」


「……七十点は固いと思ってた」


「さすがにそれはないよ、さなち」


「過大評価が過ぎるわ」


 おおむね、同意見である。

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