Come Shining ep2
「さっきの誰?」
博人の声が妙に尖っている。
「OBだってよ。なんか、講演会やるんだって?留学希望者相手に」
ふうん、と疑わしそうに見てるけど、俺、なんか悪いことしたか?
「真幸は隙だらけだから気をつけなよ」
「あ? なんだよ隙って」
「腰を触られてたの気づいてた?」
首をかしげる。そうだっけ?
普段、柔和な博人の目がつり上がった。
「危機感無さすぎだよ!」
今日はやけに突っかかるな。
「おまえさぁ。俺に気がある奴なんて、そうそういる訳ないだろ?」
おまえくらいだよ。
不機嫌そうに黙り込んだ博人に身体を寄せた。
「なあ…。一緒にいられるの、あと3日しかないんだぜ」
こんな事で時間を無駄にしたくない。
今年は博人の受験があるから、父親だけが墓参りと家のリフォームのために鎌倉へ来ることになっている。俺は一週間だけ帰省して父親と鎌倉に戻る予定なんだ。
博人の表情が変わり、一瞬だけ博人の指が俺の手に触れた。
「そうだね。無駄に過ごせないもんね」
夏休みの学校に生徒はいないけど、人の目がどこにあるか分からないから手を繋ぐことはできない。
すぐに離れた手の感触で、一層切なくなる。
ふたり並んで校舎を出ると暑い日差しが眩しくて、思わず目を瞑ったとき頬に何か触れた。
「…っ。おまえなぁ」
「ね…ホテル行きたい」
声をひそめているとはいえ、こんなとこでそういう事言うなよ。
「ダメだ」
博人が笑う。本気じゃなかったのかよ。ちょっと癪だったので肩を軽くぶつけて、ふらりとよろけた振りをして耳元に囁く。
「明日ならいいけど」
「え…っ! マジで?」
一回くらいはいいだろう。またしばらく逢えないんだから。
「約束だからね」
博人の表情が、これでもかってくらい甘くなる。この顔に弱いんだよな
「早く、潤一を迎えに行こうぜ。そんで、肉買って帰ろう」
「金曜だから、ステーキ肉が安いかもよ」
もう、気持ちは夕飯に向いている博人と肩を並べて近道のグラウンドを突っ切って家路を急いだ。
End
水の中のグラジオラス なつめ晃 @snow_snow_snow
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