第14話 

高校3年の1月になり、受験勉強は佳境に入っていた。


俺のベッドに入ってこようとした博人を押し返す。

「どうして?」

足を蹴ると不満そうな顔をして手を握り、何もしないよ、と人畜無害な顔で笑うけど。

「俺が我慢できなくなるからダメだ」

博人の顔が途端に嬉しそうな表情に変わった。

でも、カーテンは閉めるけどな。容赦なく。



受験前日にホテルに泊まり、受験に臨む事になった。父が付き添ってくれたが、泊まらずに帰っていった。

準備を整え、出来る限りのことはやったので、後は睡眠をとるだけ。無駄な抵抗はもうしない。

早々にベッドに入るが、なかなか寝付けなかった。

一人でホテルにぽつんといると、なんとなく、あの夜のことを思い出す。

あの時も、ベッドの中は寒々としていて、博人と抱き合って眠ったんだった。

隣に博人がいないなんて、いつ以来だ?

修学旅行とか、博人の部活の合宿とか?

10時をまわったとき、スマホが鳴った。

『そっち、どう?』

「寒いよ」

『こっちよりは暖かいでしょ』

「ベッドの中が寒い」

それに広い、と言うと少しの間、沈黙が落ちる。

『…それは、こっちもだよ……ね…キスしよ』

どうやるんだよ。

向こう側から、微かなリップ音が聞こえた。

「ははっ、なんだよそれ」

『真幸もしてよ』

「えー…」

急かされて、仕方なくスマホに向かってキスをする。

『…ね、顔見せてよ』

ビデオ通話はオフにしてある。

「やだよ」

『なんで?』

「…寂しくなるから」

たった1日離れているだけで、こんなにも不安になるものなのか、ということを思い知っているところなんだ。

何も言わない博人に、弱気なことを言ったような気がして急に恥ずかしくなった。

「おい、どうしたんだよ」

『……それはずるいよ』

真幸が決めたことだろ、と少し非難がましく言う。それは、そうなんだけどさ。

「明後日の夜に帰る」

『…うん。健闘を祈るよ』

博人の声をずっと聴いていたいけど、キリがない。

「博人…」

『ん?』

「好きだよ」

一瞬、息をのむような気配がした。

『ホントずるいよ、そんな不意打ち』

もう一度キスを送りあって、通話を切った。

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