第15話
「合格祝い、何がいい?」
ベッドの上で雑誌を読んでいると、博人が声をかけてきた。
博人は自分の机に座り、PCを立ち上げている。
「いや、いいよ、そんなん」
「この時のために、お小遣い少し貯めてたから大丈夫だよ。あんまり高価なものは買えないけど」
と、控えめに提案してきた。
想定外だな。
起き上がって、ベッドの上に坐り直す。
「それとも、何か食べに行く? ちょっと贅沢なものとか」
食いしん坊の博人らしい提案も、なんか、ぴんとこない。
「少し、考えさせてくれ」
いいよ、と振り返って博人は笑った。
風呂から上がって部屋に戻ると、珍しく博人は先にベッドに入って寝入っていた。
寝付きの悪い博人は、俺より先に寝る事は少ない。
ライトを消して、自分のベッドに入ると寝返りを打った博人が俺の領分に入り込んできた。
起きてるのか?
暗闇の中、柔らかい髪に触れると肩に顔を埋めてきた。
「ん…、真幸、あったかいね」
「風呂上がりだからな。…疲れてんのか?」
今日の部活はハードだった、と少し寝ぼけたような声で言うので、頭を撫でて額に唇をつけると、嬉しそうに身体に抱きついてきた。
こんなふうに過ごすのも、あと少しなんだな。
これから、少なくとも1年は離れ離れになるわけだ。胸が、きゅうと痛む。
俺の選択は間違ってたのかな。家から通える場所を選ぶべきだったのか。
でも、それでは俺も博人も前へ進めない。
5年先、10年先を見据えれば、こうするべきなんだ。
「なあ、合格祝いの事なんだけどさ」
「ん…?」
「……ホテル行かね?」
俺も半分出すから、と言いかけた瞬間、博人がガバッと起き上がった。
「マジで?!」
おまえ、眠りかけてたんじゃないのかよ。
「マジで」
「え? え、本当に? どういう心境の変化?」
驚きすぎたのか、挙動不審になっている博人を見上げて、自分でもなんでだろ、と思う。
「なんとなく」
思ったような返事ではないのが不満なのか、ちょっと口を尖らせていたが、
「嬉しい…」
と身体を擦り寄せてきたので、背中をぽんぽんと叩く。
「あんま、期待すんなよ。最後まで出来るか分かんねえからな」
正直、博人のブツが入るとは思えないけど、なんだか博人の願いを叶えてやりたくなったんだ。
「いいよ、そんなの。真幸が俺を受け入れようとしてくれるのが、嬉しいんだから」
嬉しい、嬉しいと何度も言う。
「なんか…変わったな」
「何が?」
「俺が向こうの大学行くの、随分抵抗してたのに。そっちこそ、どういう心境の変化だよ」
志望校を絞ったとき、「やっぱり、やめない?」と博人が、何度か言った。ふわふわとした感じで受け止めていたけど、現実味を帯びて、少し躊躇したのかもしれない。
それを宥めつつ、今日に至っているんだ。
んー、と博人が身体を重ねてきた。
「もっと先のことを考えることにしたんだよ。1年我慢すれば、その先はずっと真幸といられるって。そう思えば、1年ぐらい耐えられる」
そうか。博人も俺との将来を考えてくれてたんだな。
髪の毛を掻き揚げて、滑らかな白い頬に唇をつけてから、柔らかい耳朶を食むと、くすぐったそうに身体を捻った。
「真幸も、変わったよ」
「ん? そうか?」
「前は、自分からキスしてくれなかったのに。それになんか…エロくなった」
元々、エロかったけど、と付け足す。
「自分じゃ分かんねぇよ。俺からすれば、おまえの方がエロいよ」
二人してエロエロ言ってるのがおかしくて、互いに吹き出してしまった。
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