二刀流

安佐ゆう

第1話

「二刀流」であることが常識と言われるようになって、もうずいぶんと経つ。

 今では何でも二つこなすのが、大人としてふさわしい在り方だ。

 しかもどちらも遜色なく均等に。


「山田さんの勤務時間は水曜日から金曜日までの週三日、夕方六時からになります」

「はい」

「もう一つのお仕事とは重なりませんね?」

「はい。もう一つは朝から夕方の4時までですから」

「では採用ということで」

「よろしくお願いします」


 仕事を一つ辞めてから半年、肩身の狭い思いをしてきた。一つしか仕事を持っていないなんて、妻にはずいぶんと心配をかけたものだ。それでも十分な稼ぎはあったけれど。

 来月からはまた俺も二刀流になる。

 そうだ。ケーキでも買って帰ろうかな。自分でお祝いするのも悪くない。

 今日は、えーっと金曜日か。

 妻にはクランベリームース、娘にはチョコで自分はモンブラン。三種類のケーキを選んだ。

 それぞれの好みを間違えるとガッカリした顔をされるから、お土産選びにはけっこう気を使う。今日は大丈夫なはず!


 家に帰ると、娘が玄関まで出てきた。


「パパ、おかえりなさーい。ケーキがあるんでしょ?」

「そうだよ。華子ちゃんは何で知ってるのかな?」

「ママが教えてくれたよ」

「そっか。ママにはラインで連絡しておいたからな」

「ママがね、二刀流おめでとうって!」

「ありがとう。喜んでたかな?」

「うん。すごく喜んでたよ。きょうはもう一人のパパの日だから留守にするけど、明日食べるからケーキは冷蔵庫に入れておいてねって」


 妻ももちろん二刀流だから、こうして予定の合わない日もある。

 たまには娘と二人でケーキを食べるのもいいものだ。


 明日はもう一人の妻のところへ帰るけれど、そっちにも忘れずにケーキを買って帰ることにしよう。


【了】

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二刀流 安佐ゆう @you345

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