KAC20225 “88歳”


 今年で「傘寿さんじゅ」を迎えようとしておる吾人は、都心では珍しくなった屋台に大の男と2人でお酒をたしなんでおりました


 吾人は、「少年サッカー団のコーチ×プログラマー」の“二足の草鞋わらじ”で令和の荒波を生き抜く、自称『苦労知らず』のじじいですわ


 隣の御仁は、東大卒の相撲レスラーとして大成した「江戸ノ龍」「ダイヤモンド猫田」などと呼ばれたおとこですな


 まぁ。こやつは、「 外交官×相撲レスラー 」という“二刀流”で、75歳まで政治に埋没した野心の強かったじじいですわ


 ◇


「マスター。今夜のオススメの日本酒はナンじゃ?」


「マスター? よしてくださいよ。そんな洒落た呼び方は・・・

 ここは、おでん屋ですよ。店主で十分ですよ」


「おぉ、ほがか。すまんの~。ほぃで、オススメはナンじゃ?」


「ウチでは、これをオススメしています。

 といっても今夜は、これしか お出し できないんですけどね




  兵庫|大吟醸 『福寿』 




「ややフルーティな飲み口が売りでして、 クリアな風味がおでんに合うんですよ」

「ほがかぁ。ナンとも別嬪べっぴんさんじゃのぅ」


 猫田さんの言う通り、青い酒瓶がとても綺麗でしたな



 しかし――



「あぁ、お酒とえばですね。猫田さん。

 最近の法案で『お酒は88歳まで』と決まったそうですね」



 そう やすやすと、飲ませぬわ……



「は? そりゃまた、どういうこった?」

「そりゃ、初耳ですね。

 お客さん、その話は本当ですかい?」


「えぇ。それがですね、『成人を早めるなら、お酒を飲める年齢も下げるべきだ!』

 と、ビール業界が声を上げたんですよ。そしたらですね、

 政府御上が、『なら、お年寄りの為に飲める期間を定めるべきだ』

 と、言い出したらしいんですよ」


「おんどれ! 余計な事をなめくさりやがって!

 おいが、現役ならそんな法案は、ねじ伏せて…………

 あ。いや、待てよ。法政大臣は、おいの舎弟ぜよ」


と、妙な雲行になってきましたので、この話題を替えましょうか――


「そういえば、猫田さん。肝臓に好い食べ物をご存知ですか?」

「なんじゃい、急に?」


「それは、私も気になりますね」

「そうでしょう。年のせいか健康食が気になり始め

 インター根っこで、調べてみたんですよ」


「あぁ~。はいはい、インターネットですか

 いや、ほんとに便利な時代になりましたねぇ~」


「そうですな。

 で、そのインター根っこで調べてみたら、なんと!

 お豆腐が好いと書かれてあるじゃあないですか」


「おでん屋、冥利に尽きますね

 ウチでは、お酒のシメにトー飯をお出ししているんですよ」



「「とうめし?」」



「豆腐をめし(ごはん)にのせて、食べる丼のことですよ

 少し前にもSMSで、話題になった事もあるんですよ


 ウチではね、出汁ダシでよく煮た豆腐をのせて、刻み海苔を散らせてから

 練り梅を添えてやってるんですよ」


「おぉ、猫田さん。それは、一度食べてみたいですね」

「おい、まだ一滴も飲んでおらんぞ?」


「はっはっはっ。老けましたな、猫田さん。

 さっき、飲んだじゃないですか?」


「あれぇ? そう言われると、飲んだような?

 それじゃ、マスター。そのトー飯を――


「さ、さ。帰りましょう」


「いや、まだナンにも頼んどらんぞ?」

「何をおっしゃいますか、さっき食べたじゃないですか?」


「あれぇ? そう言われると、食べたような?」

「お会計をお願いします」


 そう言って、吾人は〔PUSピーウス5〕を“ワクワク”しながら、で始めました


 


 まさか――



こんな老いぼれた2人が、あのような事件に巻き込まれてしまうとは……



苦労なんぞ、したくはなかったのですがねぇ……



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