KAC20226 “焼き鳥が登場する物語”

「ねぇ、ナベさん。

 スーパーで売られている『とりにく』が

『鳥にく』から『鶏肉』に変わったのは、いつ頃だったかしら?」


 吾人ごじんは、30代後半と思われる女性とふたり

焼き鳥をメインに売り出している『居酒屋チェーン店』で、

お酒をたしなんでおりました


 彼女が気にしているのは、【食品表示ラベル】のことでしょうか?


 それとも、2020年4月より義務化された「新表示」や

2022年4月に義務化される「産地表示」を気にしているのでしょうか?


 実は、違反するとたった“一度”で会社が、

 倒産に追い込まれるほど 罰則が 重いのです


1.表示の不足があった場合~

 違反企業への是正指示・公表

 是正指示を無視すると、1年以下の懲役、

 または1億円以下(個人は100万円)の罰金・公表


2.原産地の虚偽があった場合~

 販売した場合、2年以下の懲役、

 または1億円以下(個人は200万円以下)の罰金


3.重大な表示の不足があった場合~

 予告なく、2年以下の懲役、

 または1億円以下(個人は200万円)の罰金


4.重大な表示の不足、かつ緊急の場合~

 食品の強制回収・業務停止命令・公表

 業務停止命令を無視すると、3年以下の懲役、

 または3億万円以下(個人は300万円)の罰金


5.立入検査を拒否した場合~

 50万円以下の罰金 が課せられるそうです



 吾人は、手前に置いてあるウーロン茶と、彼女のふくれっ面を見比べました



「はてさて? 詳しくは覚えちゃおりませんが、

 たしか……。2013年だったか2014年頃からじゃなかったでしょうか?」


 彼女はそれを聞き流し、呟きました


「いま食べている『焼き鳥』も

 『焼き鶏』へと【メニュー表示】が変わるかと思うと、

 時間の流れは、とても残酷よね……」


 残念ながら、外食産業への介入は、まだ先のようであります

彼女が言いたい 事は、【メニュー表示】よりも 夫への愚痴なんでしょうな


「ついに、旦那さんに愛想を尽かれましたかな?」

「そうなのよ! ちょっと聞いてよ、ナベさん!」


そういうと、彼女は串からふた切れの肉を口に頬張ほおばると、日本酒で流し込む


「この前なんて、家のゴミ箱に 空き缶を 捨てただけなのに、

 『美羽さん、これは可燃ゴミではありません』とか言ってくるのよ!

 以前は、無言でフォローしてくれたのにッ!」


「…………………………」


「他にもあるのよ!


 たまには、料理でも手伝ってあげようと思って、

 合いびき肉をボウルに入れてあげたんだけど……


 『美羽さん、いま何グラム入れたのか、ご自身は理解していますか?』

 なんて、言うのよ!


 そんなの知らないわよ!

 自分で計りなさいよ。近くに計量器あるでしょ?!」


「…………………………」


 僭越せんえつながら、

吾人は遠い目をして、再び【食品表示ラベル】の事を考えはじめました



(食品単位当たり(100g、100ml、1食分、1包装など)の量の表示が必要

1食分である場合は、1食分の量( gなど)の表示が必要)



 さて。どう伝えれば、良いのやら………



「消費期限は、どのように設定するのか、疑問に思った事はありますかな?」

「なによ? そんなの適当で いいじゃない!」



実は、消費期限・賞味期限については、具体的な検査は求められておりません



「…………………………」


――ですが、この返答には絶句をしてしまいました



「お前はそんなんだから、旦那に愛想を尽かされるんだよ、って

 いま絶対、そう思ったでしょう!


 ナベさんだけは、ずっと……味方だと思ってたのに~」


 あぁ、あ。泣いちゃいましたよ――


 もちろん、吾人はそんな事を微塵も思っちゃいませんでしたよ

 彼女の被害妄想ですよ、これは


 ふと、『ニワトリ』の語源を思い出しました


「庭のとり」「庭にいる鳥」の意味の「ニハツトリ」が語源となって

「にわとり」と呼ばれるようになったと云われております


 彼女も『3歩すすめば、忘れる』性格だったら良かったのにと



(あぁ。なんで、相手をしてしまったのかねぇ……


 5分で良いから、時間を巻き戻せないものか?

 素知らぬ顔を貫けば良かったものを……


 あぁ。早く来てくれないですかね、猫田さん――)



 今夜は、つくづく実感いたしました



 見も知らぬ女性に絡まれつつ、

 未だ来ぬ『親友』を恋しいと思った事は、

 これで、何度目でしょうか…………




 まさか――



こんな老いぼれた2人が、あのような事件に巻き込まれてしまうとは……



苦労なんぞ、したくはなかったのですがねぇ……



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