第46話 秋の日の素敵な素敵な迷い道

もう子どもじゃないのに。

晴れ渡る青空を背にした兄を見上げる。

ああ、知っているよ。

でも子どもじゃなくても楽しいはずさ。


私たちのはるか上、

さわさわとトウモロコシが揺れている。

小さい頃大好きだったメイズ・メーズ。

最後に来たのはいつだろう。


手渡された地図なんかそっちのけで

兄の手を振り切って走り出し、

迷いに迷って泣きべそかいて

やってきた兄の胸に飛び込んだ日。


今日は走らないのかい?

笑いを含んだ声にそっぽ向く。

もう子どもじゃないから。

今度こそ兄が喉の奥で笑った。


私たちはプラットフォームに上がり

風にそよぐ迷路の全景を見る。

作られた小道が描き出す巨大な絵。

今年は有名な探偵のようだ。

ここから見つけたんだよ。

兄が嬉しそうに言った。


背の高いお化けみたいだったトウモロコシ、

果てしない国の入り口みたいだった小道。

疲れ果て、途方に暮れて座り込む私。

けれどいつだって兄は私を見つけてくれた。


もうはぐれることなんかないのに、

私たちはしっかりと手を握り合って迷路を行く。

やっぱり地図は意味がなかったけれど

曲がりくねった道もトウモロコシの深い影も

心踊らされる何ものでもなかった。

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