第43話 新しい季節が教えてくれたこと

オーダーしていた品が届く。

丘には朝夕、

秋の気配が立ち込めるようになっていた。

風が窓枠を揺らした。

ちょうど良い頃合いだ。

私は鼻歌を歌いながらそれを広げた。


スモーキーピンクのリネン。

ブラウスとショールのセット。


珍しい色だね。


覗き込んだ兄が目を細めた。

その一言にちょっと照れて兄を見上げる。

初めての色に喜びと戸惑いが入り混じる。


でもよく似合う。


兄の微笑みにほっと胸をなでおろす。

まるで心変わりを指摘された乙女のように

返す言葉も見つからなかったから。


だけどちょっと妬けるね。

色に嫉妬するなんて

本当に心が狭いな、僕は。


苦笑する兄に首をかしげる。


それだけ心掴まれたということ。

それだけ求め欲したということ。

相手が色でも妬けるのは仕方がない。

だけど。


兄の微笑みが大きく優しいものになる。


まっさらなお前を見る一番は僕。

柔らかく恥じらいがあって

控えめでけれどどこか艶めいていて

知らないお前を暴いたような

そんな気持ちにさせてくれる。

これは感謝しないとね。


今朝はマスタードイエローのシャツ。

兄のその姿を見たときに

心を横切ったものが今まさに言葉にされて、

私はぎゅうと兄の腕に抱きついた。


おやおや、と兄が目を丸くする。


やっぱりとことん甘えん坊だ。

だけどお前らしくて安心するね。

ずっとずっと、このままでいいから。


風がまた一つ、窓枠を揺らした。

世界が色を深めていく。

丘の家も丘陵地も荒野も空も。

そして、私たちの想いも。

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