第40話 二人分の夢が叶う夜

よく研いだナイフで

こんなことくらいしか手伝えないけどと

兄がミニトマトを半分に切ってくれた。


そんなわけはないだろう。

なんでもそつなくこなせる人は

料理だってきっと上手に違いない。


けれどそんな兄のために

何かを作ってあげたいと思う人も

きっと後を絶たなかっただろう。


私の胸がチリリと痛んだ。

こぼれそうになるため息を隠そうと

私はハーブを刻む手を早めた。


お前は本当に料理が上手だね。

きっとみんなが褒めてくれただろう。

美味しいと言ってくれたんだろうね。


兄が大きなため息とともにそう言った。

私は驚いて顔を上げる。

何がそんなにいけなかったのだろうか。


ええ、毎日お料理はしたわ。

このキッチンで作るものを考えながらね。

おかげで二人分を食べたから

新しいドレスが着られなくなりそうで

ハラハラしっぱなしだったわ。


兄がもう一度大きな息をついて

それから明るい笑い声をあげた。


笑い事じゃないの。

本当に困ったんだから。


頬を膨らませば兄がそれをそっと撫でた。


二人分の料理はできないけど、

二人分の料理はきっと食べられるよ。

だけどそうしたら、

今度はお前がやせ細ってしまうから

一人分ずつ分け合って食べよう。


ため息の理由は教えてくれなかったけれど、

兄はとても嬉しそうに皿を並べていった。


向かい合って座り、

今日のために考えてきたものだと言えば、

より一層笑顔になって頷いた。

それからなんとも安心した顔で私を見つめ

満足そうに付け加えた。


僕はね、

二人分の食器洗いが夢だったんだ。

お前が一人で洗ってきた二人分の食器を

これからはずっと僕が洗ってあげるよ。

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