第39話 二人の庭に息づくもの

庭にはね、

その人の秘密が隠されているみたいだよ。

読んでいた新聞から顔を上げて兄が言った。


まあ、大変。

私は胸を押さえた。


母の庭は静かで知的で、

整然として美しかったけれど

それを引き継いだ今、

まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのように

庭には色が溢れて風にそよいでいる。


ちっとも大人になれない庭。

憧れがこじれ続けた庭。

夢が溢れすぎてはじけちゃった庭。


苦笑まじりにそう呟けば

兄がそっと私を包み込んだ。


だけどすべてが微笑みに満たされてる。

いつだって優しさが降り注いでる。

ああ、愛されてるんだって、

心から幸せになれるよ。


私は澄み渡る空のような青の双眸を見上げた。

と、薄い唇が綺麗な弧を描く。


もちろんそれを知るのは僕だけで十分だ。

僕は心が狭いからね。

この幸せを誰とも分かち合いたくないんだよ。


まあ、大変。

私は胸を押さえた。


憂いなど綺麗さっぱり吹き飛んで

喜びを刻む鼓動だけがそこにはあった。


明日は腕いっぱいに薔薇を摘むわ。

そう言って胸を張れば

兄が満足そうに微笑んだ。


ああ、そうしたらいい。

そうして僕を溢れるほど幸せにしておくれ。

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