第38話 指先を彩る色の誘惑

陽気な日差しが降り注げば

街ゆく人たちはカラフルに

その指先を彩って楽しむ。

華奢なミュールの先端を

私もまた白に塗り立てた。


兄のアンクレットが好きすぎて

私はずっと白いペディキュア。

兄の青をくすませたくないから。

白は主張しながらも欲張らない。

何とだって上手くやっていける色。

それなのにそんな足先を掲げて囁く人がいる。


塗ってあげる。

お前は忙しいからね。

僕が塗ってあげるよ。


私は慌ててかぶりを振った。

いいの。これでいいの。これがいいの。

色だけの話ではない。

そんなこと、いいわけがない。


握られた指先が熱を持って密かに身悶える。

離して欲しくて涙目で見上げれば

もっとずっと引き寄せられた。


長くて器用な指が

新しいボトルを揺らしてみせる。

スモーキーブルーに黄金の粒。

それは兄が選んでくれた夏の生地にも

足首を飾る大切な石にも

驚くほど似合っていたけれど、

私はもはや息も絶え絶えだ。


もういいのでしょ?

塗り終えたそばから待ちわびて

ひき抜こうと力を入れてみたものの

絡む指先は微動だにしない。


ダメだよ、このままで。

乾くまで動いちゃダメだ。

ああ、ごらん、綺麗だね。

今日は素敵な夢が見れそうだ。


新しい色に染められた10本の爪。

その誇らしげな輝きが

私にも穏やかな眠りを与えてくれることを

願うばかりの夏の夜だった。



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