第37話 新しい茶葉を選ぶ喜び

午後は紅茶を買いに街へ出た。

華やかに並んだ季節の新作を

はしゃぎながら買い込む友人の傍らで

いつもの紅茶を淡々と籠に入れる。


買わないのかと心配されて小さく微笑む。

大丈夫。また来るわ。


少しずつ、少しずつ。

そう、何度も、何度も。


いつだって私は探してる。

兄を連れ出す小さな理由。

何もなくてもきっと来てくれる。

だけど、やっぱり。

大切な時間を独り占めするために

私は理由を探してしまう。


夕暮れの駅、

改札の向こうに兄を見つけて駆け寄る。

籠を覗き込んだ兄が首をかしげる。

これだけかい?

新作が出たとはしゃいでいたのに?


黙って微笑めば兄が目を細めた。

週末にもう一度行こう。

もっと大きな籠を持って。

あれもこれも買ってあげるよ。


腕を絡ませながら私は兄を見上げる。

いいの、小さな籠で。

来週も再来週も一緒に行きたいわ。


兄がそっと私の髪を撫でた。


そうだね、茶葉は新鮮な方がいい。

香りが素敵なものが一番だ。

少しずつ、少しずつ。

そう、何度も、何度も。

新しいものを二人で買いに行こう。

いつだって、そうしよう。

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