第35話 熱いうちに召し上がれ

オーブンに入れておいたスキレットに

バターを落として広がったら

一気に生地を流し込む。

扉を閉め、窓から膨らむ様をじっと見守る。

兄は興味深げに、けれどどこか心配げに

そんな私の一連の動きを見ていた。


さあ、早く。


膨らんだ生地にクリームとフルーツをのせ

庭に面したテラスのテーブルへと運ぶ。


慌てないで、熱いんだから。

でも、焼きたてを食べられるのは幸せだね。


そう言って笑う兄に私も微笑む。

作り置きを温めなおすのは当たり前だった。

それを寂しいだなんて思ったことはない。

けれどこうして出来上がったものをすぐに

二人で囲むことができるようになって

その贅沢さを改めて感じた。


そんなテーブルの上には大切なものたち。

二人のイニシャルを刺したクロスにナプキン。

母が大事にしていたアンティークシルバー。

朝露を含む小さなブーケは今朝作ったもの。

兄が選んでくれたティーセットももちろん。


ポットにお湯を注ぐたび、

カップに紅茶を分けるたび、

ああ、本当に二人なんだと喜びを噛みしめる。


初夏の風吹く中、

私たちは甘い時間を心ゆくまで堪能した。

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