第32話 おとぎの国の衣装合わせ

年に二度、母や叔母と連れ立って出かけた。

新しいシーズン、新しいコレクション。

多くを望まない母も

それだけは譲らなかった。


まるで花畑のようだと思った。

けれど覗けばそこには一つ一つ世界があって

まるでおとぎの国を旅するかのようで

私はたまらず感嘆の声をあげた。


好きな布を選び、新しいドレスを作る。

お気に入りの型でサクサクと、

母が縫ってくれるのが常だったけれど

時折叔母が手の込んだデザインを

快く引き受けてくれた。


そんな時、兄は決まって留守番だった。

本当は聞きたかった。

兄にあれもこれも見せて聞きたかった。


思うものにすればいいのだと母は笑った。

それでも私は兄の顔を声を思い浮かべ

彼が好きそうなものを必ず選んだ。

兄が好きなものが私の好きなもの。

それだけは譲らなかった。


明日一緒に出かけましょう。

眠る前に囁けば兄が頷いた。

春のドレスはどんな色がいい?

それは見てからの楽しみだと

兄が私を抱きしめて目を閉じた。


ようやくやってくる幸せな時間が

待ち遠しくてたまらなかった。

きっと夢で一足先に、

おとぎの国を駆け巡るのだろうと

兄の胸の中で私はこっそり笑った

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