第31話 私色の世界を縫い留める

ベリー色のエプロンかい?

ええ、麦わら色の刺繍をするわ。

いいね、その組み合わせはきっとよく似合う。


母が刺してくれた大好きな薔薇。

兄とお揃いの麦わら色のエプロン。

それが嬉しくて嬉しくて

どこへ行くにもつけて行った。


けれど小さな私はエプロン汚しの名人だった。

ベリーの季節。

真っ赤な実りを夢中になって摘め集めては、

持ちきれなくなってエプロンに包んだ。

麦わら色のエプロンは

なんとも素敵なベリー色の水玉だらけ。


母が呆れて首を振った。

あなたにはベリー色ね。

麦わら色はもう作らない。


綺麗な色だ、大好きな色。

だけど兄とお揃いではなくなるのが嫌で

私は泣いた、泣いて泣いて泣いた。

僕が洗うからと兄がかばってくれた。

そんな私たちを見て

母は大きなため息をつき、

けれど最後には認めてくれた。


洗っても洗ってもベリー色は取れなかった。

私は肩をすくめ、兄は大笑いした。


きっとベリー色が似合うのさ。

ベリーがお前を離さないんだよ。

麦わら色にベリーの水玉は

お前らしくてとっても素敵だよ。


あの日からエプロンは必需品。

エプロン汚しのタイトルは今も健在。

真っ赤なベリーも緑の草汁も

私のエプロンには日々の喜びとなって残される。


もう麦わら色にはこだわらない。

世界の色を日々エプロンに

まるで趣味のように染め続ける私には

きっとベリー色も良いだろう。


そしてそこにそっと、

兄とお揃いだった麦わら色を刺せば、

私らしい一枚が仕上がった。

兄が認めてくれた私らしさが

甘いベリーのように匂い立つ、

素敵な素敵なエプロンの出来上がり。



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