第29話 花咲く地へ旅する約束
夕食の
昔話の流れで取り出した画集には
思いがけないものが
セピア色になった押し花。
ああ、これは海辺のと顔を上げれば
兄も懐かしそうに目を細めた。
あの日、
叔父が母のために持ってきたのは
大きなピラミッド型の花を束ねたものだった。
これだけじゃない。
もっともっとだ。
いろんな形、いろんな色。
海の近くの公園に
まるで森のように咲いているんだよ。
叔父の話を聞きながら
私たちは自分たちの頭ほどもある花を見た。
お前たちはきっと気にいるよ。
まるでおとぎ話のようだから。
私は胸を高鳴らせた。
森のように花が咲くだなんて。
次の夏には行こう。
そう言いながら延び延びになり、
その約束は果たされないままだったのだ。
がっかりするなよ。
僕たちはもう子どもじゃない。
森みたいだなんて
そんなの例えなんだから。
兄が心配そうに私を見た。
しゃがみこんで見上げればいいのよ。
寝転んだっていいわ。
大人になったって、
大威張りで歩く必要なんてないんだから。
もちろん子どものままだってそうするわ。
そしたら森はもっともっと大きくなって
迷子になること間違いなしね。
兄が目を丸くして私を見た。
でも助けに来てくれるんでしょ?
野生の勘で必ず見つけてくれるんでしょ?
冒険はいつだってお手の物なんでしょ?
兄が大笑いして私を見た。
私は押し花をそっと画集に戻し、
同じように笑いながら兄に向き直った。
思い出は思い出に。
私たちの新しい花を採りに行こう。
週末の旅が待ち遠しくてたまらなかった。
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