第25話 憧れが光を運んで来る夜

これ、面白そうじゃないか?


兄が見せてくれたチラシには

光のアンティークという言葉が踊っていた。

夏至も近づいた週末、

私たちは早起きして2つ向こうの街に繰り出す。


ランタン、テーブルランプ、燭台、

果てはガス燈まで。

夜を楽しむこの時期にはぴったりの催し。

優雅なラインのものから無骨で野性味あるものまで

ちょっと覗くつもりが目移りして大変だ。


この籠に入るものしか買わないんだから。

でも買うのは決まっているんだな。


兄に冷やかされても、言い返す余裕さえない。

私は夢中になってテントを回った。

片手はしっかり兄に握られている。

小さい頃、同じように嬉々として屋台をめぐり

迷子になって大泣きしたことを思い出す。


これ、何?


まるで古いカメラのような大小様々な箱。

長いものもあれば、

大きなレンズが光るものもある。


ああ、幻灯機だね。

スライド映写機の原型とでもいうべきかな。


投影されたものは回転したり左右に動いたり、

なんともリズミカルで可愛らしい。


それだけではない。

川の流れが光ったり星が瞬いたり、

思った以上に繊細な動きにも心奪われる。


見てごらん、ただの舞踏会じゃない。

もっと素敵なものがあるんだ。


手招きされて覗き込めば

輝くシャンデリアの下、

くるくると回るお姫様たち。


さらに促されてハンドルを回せば

有翼のユニコーンが現れ出た。

お姫様たちが次々とそれに乗り、

ドレスの裾を翻して空へと舞い上がる。

その空には夢見るような満月と無数の星々。


夏至の夜に二人で見よう。

ユニコーンは買ってあげられないけど、

庭の壁には招待できるから。


幼い頃からの憧れ。

それがさらに有翼ともなれば

胸の高まりは音を立てんばかりだ。


素敵ね、とっても素敵。


きっと大好きな夏至に、

彼らはさらなる月と星の光で庭を満たし、

夢幻の王国を作り上げてくれるだろう。


籠に入れるんじゃないのかい?

こんな大切なもの、胸に抱くしかないわ。


私の腕から外された籠に

兄はたっぷりと花を投げ入れ、

夕暮れのガス灯燦めく中、

私たちは笑いながら丘の家を目指した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る