第22話 飾られた文字が微笑むとき

エプロンの胸の刺繍にそっと触れる。

モノグラムのイニシャルは一見私のもの。

だけどそれは本当で嘘。

なぜならそれは兄も一緒だから。


使い込まれたリネンのエプロンは私の宝物。

パリッと包みこみ、キュッと結べば引き締まる。

自分らしく前を向いていくための儀式。

大事なそれを私は兄の名前で飾った。

いつもいつも一緒、だから寂しくなかった。


最初は拙くぎこちなかった

アルファベットのカーブも

いつしか繊細な蔦や花が絡む美しいものになった。

一人の時間のこぼれだした想いが

作り上げた特別なもの。


素敵だね。

僕のハンカチにも刺してくれると嬉しいな。


エプロンを手に取った兄はそれしか言わなかった。

けれど

刺繍を見つめる眼差しの優しさが物語っている。

わかっている、すべてお見通しだ。

なぜなら自分も同じ想いを持ち続けてきたからと。


もちろんよ。

テーブルクロスにもナプキンにも、

そうそう、ピローケースにも刺すわね。


張り切る私に兄がほんのりと微笑んだ。

詰め込まれた切なさが愛しさに変わる時。

あの日夢見た優しい時間に

私の胸はいっぱいになった。

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