第22話 飾られた文字が微笑むとき
エプロンの胸の刺繍にそっと触れる。
モノグラムのイニシャルは一見私のもの。
だけどそれは本当で嘘。
なぜならそれは兄も一緒だから。
使い込まれたリネンのエプロンは私の宝物。
パリッと包みこみ、キュッと結べば引き締まる。
自分らしく前を向いていくための儀式。
大事なそれを私は兄の名前で飾った。
いつもいつも一緒、だから寂しくなかった。
最初は拙くぎこちなかった
アルファベットのカーブも
いつしか繊細な蔦や花が絡む美しいものになった。
一人の時間のこぼれだした想いが
作り上げた特別なもの。
素敵だね。
僕のハンカチにも刺してくれると嬉しいな。
エプロンを手に取った兄はそれしか言わなかった。
けれど
刺繍を見つめる眼差しの優しさが物語っている。
わかっている、すべてお見通しだ。
なぜなら自分も同じ想いを持ち続けてきたからと。
もちろんよ。
テーブルクロスにもナプキンにも、
そうそう、ピローケースにも刺すわね。
張り切る私に兄がほんのりと微笑んだ。
詰め込まれた切なさが愛しさに変わる時。
あの日夢見た優しい時間に
私の胸はいっぱいになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます