第21話 私たちのベリーベリー

私の名を呼ぶ声に目が覚めた。

夢を見ているのだろうか。

大丈夫、ここにいるわと囁きながら、

伸ばされた指に指を絡めれば、

ゆっくりとまぶたが開いた。

いつもよりずっと無防備な青が揺らめいている。


よかった、泣いてない。


夢を見たのだと兄が言った。

ベリーがないと私が泣く夢だ。


そんな心配はなくなるだろう。

今日は約束のラズベリー摘みの日だ。

お気に入りの籠を持って兄と出かける。


人気ひとけのない森の奥、夢中になって赤い実を摘む。

そっとそっと崩れないように丁寧に。

ふと振り返れば見たことのない小さな籠が。

覗き込むとそこにはもっともっと小さな赤い実。


私は声を上げて笑った。

ヤブヘビイチゴ。

誰も食べないけれど黄色い花も可愛いそれは

私たちの初夏のままごとの大切な食材だった。

パイにパンにスープにジュース。

ヤブヘビイチゴがなければ始まらない。

季節の終わりには泣きべそをかく私がいた。

ああ、兄の夢はと笑いがこみ上げる。


これだけあれば足りるかな。


兄が得意そうに目を細めた。

いつだって美味しいと言ってくれた。

なんどもお代わりしてくれた。

柔らかな午後の記憶がなんとも甘酸っぱい。


さあ、今日は美味しいものを作りましょう。


二つの籠を掲げて私は微笑んだ。

家への道は懐かしい鼻歌をお供に。

真っ赤な実たちが誇らしげに輝いていた。





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