第25話 おらさ、いじめとか、わがんね

 柊木の闇が深すぎて、一瞬家に帰ろうか考えたぐらいだ。


 逃げるように柊木の部屋から飛び出した。


「竜馬、どこ行くの? 僕ともっとお話ししようよ、ニタァ」

「お前、完璧中身で損してるぞ柊木!」


 この女の将来を考えると、関わらない方がいい。


「つまり、外見は竜馬の理想ってことだね」

「調子に乗るなデブス!」

「酷いよー、言っておくけど竜馬だってブスだからね?」

「もうそれでいいから、だから」


 俺 に 近 づ く な!

 絶叫するようそう言い放ってダッシュで一階に降りて、コテージから外に抜け出した。


「はぁ、はぁ、なんで俺、柊木と結婚したんだ」


 過去の自分が取った盛大な過ちを怨むほど後悔していると。

 がし! っと誰かが股下から俺の股間を鷲掴みにした。


「んほぉ!」

「おっはは、いい声出すね竜馬、さすがは僕の最愛の人」


 い、嫌ぁああああああ――――――ッ!!

 に、逃げるんだよ~!


「鬼ごっこするつもりかな? こうしよう竜馬」

「ついて来るなよ!」

「僕に捕まったらその時は本気で結婚してもらうよー!」


 ははは、馬鹿なことを仰るでないウサギさん、いやエルフ耳さん。

 貴方にー? どんなー? 権利があってー? 結婚を強要できると思って。


「この約束を破ったら父上に言いつけて退学にしてやるぞー!」


 何してるんだ俺、逃げろ、逃げろ、逃げろほら早くもっと太もも上げて!

 柊木に捕まったら人生終了するぞ!


 そう言えば昔の映画で、最後は主人公がひたすらマラソンするものがあった。

 俺は柊木とガチ鬼ごっこして、お互いにガチ逃げガチ追いしてたんだけど。

 途中からランナーズハイになってさ。


「どうした柊木!?」

「あ、足がもう棒になって、ぼ、僕を置いて先に行くんだ、竜馬!」

「馬鹿やろう! ここで止まったら俺達」


 俺と柊木は途中からランナーズハイになって、山の頂上部まで走り切ってしまい。

 結果的に夜の山道を猛省しながら二人で下っています。


「俺達、駆け落ちしたって思われるだろうが!」

「それって願ったり叶ったりなのでは?」

「お前しか願ってないしお前しか叶ってねぇーよ!」


 レンに個チャを飛ばしたけど応答がない、たぶん今頃爆睡している。

 高薙さんに個チャを飛ばしたけど、こっちも応答がない。

 なら部長しかいないけど、あの人見るからに地雷だし。


「竜馬、後生だから」


 柊木もさすがに今回の馬鹿には、涙目になっていた。


「ここで一緒に死のう?」


 柊木に差し出した手の平は納めました。


「いやガチで!」

「なおさら嫌だろうが!」


 ガチで一緒に死のうとするな。


「違うって、ガチで足が動かねぇんだこれが」

「……じゃあおぶるよ」

「ううう、すみません」


 柊木を介助するように背におぶり、俺はコテージを目指して歩いた。

 夜の山道は灯りが頼りなく、ぶっちゃけ転びそうで怖いけど。


「柊木、帰ったら病院に行けよ」

「検討します」

「いやマジで、お前頭診て貰った方がいいよ、もしくは心を」

「そっち!?」


 うん、そっち(真顔)。


「……でもさ、竜馬、僕、今回のことばかりじゃなく、君には感謝してるんだよ?」

「それって過去にあったいじめと関係してる?」

「痛い所突くなー、まぁ実際そうで、今だから言えるけど」


 柊木は声音を落とし、過去の心境を語ろうとしているみたいだった。

 何となくだけど、ここから先の話は真剣なものになると思う。


「僕、あの時は本気で死のうと思ったからね。それを証拠に手首にリスカの跡だってよくみればあるんだ」


 今は体勢もあるし、そもそも暗いから見えないけど、そうだったのか。


「もちろんVR登校の時に使ってるアバターにリスカの跡は反映してないけどね。VR様々だよ本当に」


「VRで人生やり直せたって話はしょっちゅう聞くしな」


 もちろん良し悪しは人によって違うのだろうけど。

 柊木の事案みたく、VRが秘めている可能性は俺達に思い知らせる。

 ある人にとっては、VRは失くしてならないものだったのだと。


「でも、いじめがなかったら竜馬と結婚できなかったし、何とも言えんな」

「どうして、あの時それを言わなかったんだ?」

「いじめに遭ってたこと? 言った方がよかった? 当時十五歳だった君に」


 つまり柊木はこう言いたいのだろう、俺達はまだまだ子供なんだって。


「だからもう一度お礼言っておくね竜馬――ありがとう御座います!」

「急に大声出すなよ耳元でぇ、どういたしまして」


 そう言うと、背中におぶっていた柊木は上下に動いている。


「何してるんだ?」

「ダーリンの背中に頬ずりしてる、幸せだにゃー」

「わかった、今だけは許す、ただし今だけだ!」

「駄目よだめだめぇ、今だけじゃなく、竜馬の背中はいつだって僕のもの」


 しかし意外だった。


 柊木は出会った当初から社交性豊かだと思ってたし、俺以外のネトゲ仲間とのコミュニケーションの取り方も上手だった。柊木はギルマスという立場だったし、まさかそんな過去があるなんて思いもしなくて。


 今にして思えば、俺、こいつに謝らないと駄目なんじゃないか?


「今度は俺から一ついいか?」

「結婚ならOK、あくしろ」

「……勝手にいなくなってごめんな」


 そう言うと、背中越しに柊木は一瞬震えたように思う。


「罪悪感、ある感じ?」

「今さらだけど、辞めるならちゃんと理由言ってからにすればよかった。せめてお前だけには」


 俺って、何なんだろ。


 元々エルフ耳が大好きで、普通の陰キャ男子を演じていたレンと馬鹿なことばかり教え合って、興味本位で始めたファンタジーゲームで、エルフ族だった柊木と仲良くなり、結婚して、その後盛大に逃げるよう辞めてしまったけど。


 こんな近くにエルフ耳が、それも美少女級のエルフ耳がいたのに。


「……竜馬、僕の方こそごめんね」

「はは、お互いに謝ってれば世話ないな」


 でもなんか気分晴れた、柊木とは今度とも付き合って行けそうな気がする。

 残念なのは柊木のポテンシャルがエルフ耳の美少女だったことぐらいで。

 エルフ耳関係なしに、柊木とはお互いによき理解者になれる確信があった。


「なぁ柊木」

「ごめんね、竜馬」


 ごめんねって、お前まさか――!?

 さっきから柊木が手を首に回していて、ごめんねと言うとキューと絞り出す。


「ばかやめろばか!」

「いいから黙って落ちろ! 既成事実作らないともう後がないんだから!」

「きせいじじつって、なん、で」

「落ち着いて竜馬、僕は本気なんだ。既成事実を作ろうとするぐらい君のことが!」


 柊木、例え俺のことが世界中で誰よりも好きなのだったとしても。俺の気持ちはお構いなしか? もしもお前が既成事実に走ったら、後悔するのはお前だよ、がくり。


「ヨシ! じゃあ早速竜馬の童貞頂こうかな……でもこの状態からどうやって起たせればいいんだろう。あーん、さすがに私もそこまで知識ないなー。ぬ? 嫌な気配がやって来るか、ここは一旦隠れよう、ヨシ!」


「竜馬ー?」

「将門くん、いませんかー?」

「む!? 竜馬を見つけたぞ二人とも!」

「おお、竜馬? なして倒れてるんだ……竜馬? 竜馬、竜馬!」


「あちゃー、レンちゃん達が来ちゃってましたかー。ここはしょうがない。何かに追われている振りをしつつ、ぬぁ! はぁ、はぁ、はぁ、みんな大変だよ!」


 この時、俺は意識を失っていた。

 柊木のスリーパーホールドによって、落ちてしまったんだ。

 その後幸運にも駆けつけたレン達によって俺は発見され。

 追い込まれた柊木は身を隠していた草むらから飛び出て。


 俺が倒れていた理由に、野生動物との死闘があったとかって、わかり切った嘘を吐く。


「ん、俺、平気」

「大丈夫だった竜馬!?」


 そして意識を取り戻すと、柊木は何を思ったのか駆け寄り、再度首を絞める。


「え? なにこれ、に、兄さん、私じゃないよ! 手が勝手に竜馬を」

「何者かわからないが、妹の身体から出て行け! ドーマンセーマンドーマンセーマン!!」


 どうでもいいけど、この三文芝居危険だし、早く終われ。

 あへ。



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