第24話 おらさ、奇人とか、わがんね

 昼食を摂り終えた後、俺達はそれぞれの部屋で荷解きした。


 俺の部屋は一階にある大きな一室で、部長と同室。

 他三人は二階にある個室にいる。


「竜馬、実はお前に込み入った話がある」

「なんでしょうか?」


 部長は二つあったベッドの片方に自分の荷を放ると、カメラを回しつつ聞く。


「ぶっちゃけお前の好きな人は誰なんだ? 妹に希望はあるのかないのか」

「……柊木ですか? なんとも言い難いですけど」


「妹はガチでお前を慕っているみたいだからな、無論、クラホくんの存在もあるだろうが、それでも妹に生きる希望を持たせてやってくれないか。せめて最期にお前から愛されていた実感を覚えれば、後悔なく逝けると思うしな」


 えっと、後半に不穏なワードが入っていたけど。


「柊木は重い病でも患ってるんですか?」

「ああ、そうだ」


 なんか、急激に色々とやるせなくなって来た。


 俺と彼女は元々オンゲ仲間で、ゲーム上とは言え、結婚し合うほど気を許していた。現にさきほどの昼食でも、俺達の間に他人行儀みたいな遠慮はなくて、本当の家族のように多少汚い言葉を言い合っていた。


 でも全然嫌な気がしなくてさ、それ所か、安堵する面もあるぐらいで……。


「妹の病名は、竜馬しゅきしゅき大しゅきほーるど病だ」

「あんた妹ともども病院に行ってこいよ」


 気落ちして損したわ!


「竜馬、俺と妹は気にしない」

「何をですか」


 やや嘆息吐きつつ聞くと、部長は胸を張ってこう言う。


「お前から性的な目で見られようともだ!」

「俺そんな視線送ってました?」


 いい加減なこと言いまくってると、ぶっ〇すぞ。

 部長と他愛ない会話しつつ荷解きを終えたあと、俺はレンのもとに向かった。


「竜馬か? どうしたべ、寂しくなったのか? ならおらと一緒の部屋にするか?」

「いや、そうじゃなくて、今から俺と一緒に」

「一緒に?」

「学校に行かないか?」


 明竜高校は進学校だから、一年時のGWから宿題が満載だった。


「どうした竜馬、おめえ高校に上がってから人が変わったみてぇじゃねぇか」

「確かに中学の時とは違うと思うけど、それって結構当たり前のことじゃん?」

「って言うと? 学校については少し待ってくんろ」

「何か予定あるのか?」


 聞くと、レンはベッドに向かい、仰向けにダイブする。


「こげな素敵な場所に来たんだから、少しはゆっくりしようやさ」


 まぁ、言いたいことはわかるけどな。


「にしても、レンの今度の衣装はちょっと大人って感じだな」

「そうけ? 竜馬のお母さんさがほとんど決めてくれたけどな」

「言う暇がなかったけど、何て言うか、凄い綺麗だと思った」


 そう言うと、レンはとたんに黙ってしまった。

 俺はありのままの気持ちを伝えただけだけど、今にして思えば恥ずかしい台詞だ。


 俺達の間にはまだ恋愛禁止の約束は続いている。

 そんな時期に、こんな言葉掛けられても迷惑だよな。


「今の聞かなかったことにしてくれ」

「……竜馬」

「な、なに?」

「……愛してるさ」


 ……うう! 銀髪エルフ耳の美少女から愛を囁かれてしまった。

 喉がすぼまり、脳裏の野獣が大興奮して暴れはじめた。


 本能がこう思っている――もうレンを今ここで俺のものにしてもいいのでは?


 ……とりあえず、この部屋の扉もロックしよう。

 ついでに防音機能も付けて……後はレンの気持ち次第。

 出来れば俺の誘いに、応じて欲しい。


「な、なぁ、先日お前から誘われた時のこと、俺本当は後悔してるんだ」

「……」

「あの時、お前の誘いに応じていればよかったって、だからもし良かったら」


 今からしないか……と言うのは無駄だったようだ。

 いつのタイミングからか分からないけど、今、レンはすやすやと寝ている。


 よく見るとレンの耳には俺が贈ったダイアモンドのピアスをしていて。

 それを見た俺の邪気は霧散したようだ。


 レンの部屋からそっと退室した後は、柊木の部屋に向かった。

 ――コンコンコン、と丁寧に三度ノックしてから室内の柊木に声を掛けた。


「柊木、今平気か?」

「あはぁーん! おほぉー! んほぉおおお!」

「今取り込み中か、悪かったな」


 柊木は現在取り込み中、俺が彼女の部屋に無理やり押し入る必要はない。

 じゃあ後は高薙さんの様子でも見に行くか。


 と、柊木の部屋から踵を返した時、肩をがしっと掴まれた。


「ねぇ、どうしてそこで去るの? 僕が今部屋で何してたのか知りたくないの?」

「え?」

「その死んだ魚の目はやめてよ! 僕達は一応元夫婦だろ」

「はぁ、そうっすか」


 とりあえず気を取り直して、柊木の部屋に入るとベッドに抱き枕があった。

 抱き枕使って寝てるとは、イメージ通り過ぎて何も言えな……!?


「なんだこの抱き枕!?」


 ベッドにややひしゃげた感じに置いてあった柊木の抱き枕。

 よくよく見ると着脱式のカバーが掛けてあり、俺の裸がプリントされている。


「見てしまったね、僕の嫁を」

「おま、なんて物をキャンプに持って来てるんだよ」

「仕方がないだろ、まさか嫁を置いて一人で楽しむ訳にもいかないしさ」

「やめろその抱き枕を立たせるな」

「竜馬、ちなみに僕の嫁は凄いんだよー」


 と、柊木が抱き枕の股間部分に触れると。


『うわ! な、なんだよ柊木か……え? 今から僕とヤラナイカ? 素敵』


 抱き枕が俺の声であらぬことを喋っていた。


「凄いだろ?」

「肖像権侵害だぞ!」

「なんで? 僕と君の関係は何? いちにのさんで答えようか」


『世界で最強の夫婦だろ』

「そのとーり!」


 どうやら、柊木はかつて俺と興じていたオンゲ時代の音声を保存していたようだ。うわ! だったり、素敵、と言った単語単語を編集して繋ぎ合わせて、それを抱き枕に仕込んでいる。


 はっきり言って、恐ろしくて鳥肌が立つ。


「これがヤンデレって奴か」

「うおい! 誰がヤンデレだって!?」

『え? どうしても言わなきゃ駄目……? あ、愛してる』


 やめろぉおおおおおおお! もう止めて……やめて……。


 俺はこの時悟ったんだ、柊木の弱味を握ろうなんて馬鹿な考えだったと。

 俺は素直にレンと結婚して、生涯、泰平に過ごそう。


 そう思わざるを得なかった、柊木の奇人っぷりに関しては。

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