第15話
弾は叶槻の横を飛んでいった。彼は咄嗟にその場に腹這いに伏せた。ヘドロの悪臭が鼻を突くが、気にしている場合ではない。他の者たちも伏せながら反撃する。
相手はシルバーキーの乗組員に間違いない。上から撃ってくるので有利だが、散発的な攻撃で統制されてはいない。叶槻は蘭堂の方に向いて叫んだ。
「相手に我々のことを伝えて、降伏を勧告してください!」
蘭堂がスペイン語を使って、大声で語りかける。しかし、向こうは何かを言い返した後で更に銃撃を繰り返した。
「奴らは何を?」
「お前らには渡さない、と言ってます!」
渡さない?何を?考える間もなく、弾丸が地面を撃ち抜く。味方が苦悶の声を上げた。団逸機関兵が撃たれたのだ。
「団逸、大丈夫か!軍医殿頼みます!」
蘭堂が団逸の傍らに匍匐で近づく。叶槻は他の兵たちに声を張り上げた。
「俺が指示した目標を集中して撃て!まずは一番右にいる奴だ!」
叶槻はそう言って一番右でライフルを構えている男を拳銃で撃つ。それに続いて味方の小銃が次々に発射された。男は後方に倒れた。
「いいぞ!次は一番左だ!」
叶槻の射撃指揮で相手は次第に数を減らしていった。しかし抵抗は止めない。やがて最後の1人になった。
弾が尽きたのだろうか。相手の男は大きなナイフをかざして、何事かを叫びながらこちらに駆け出した。蘭堂が大声で呼び掛けるが、聞く素振りもなく突進する。叶槻は相手の胴体に向けて拳銃を発射した。男は頭から崩れ落ちて動かなくなった。
「止まれと言ったのに……」
蘭堂が震える声で呟いた。
団逸は右腕を撃たれていたが、取り敢えずの止血をしたので生命に別状はなかった。叶槻たちは丘の上まで登り、倒れているシルバーキーの乗組員たちに近づいた。味方の射撃が上手すぎたらしく、生きている者はなかった。
最後にナイフで立ち向かってきた男は血走った目を大きく見開いて、何かを叫ぶように口を大きく開けたまま絶命している。服装から判断して、この男が船長だろう。
叶槻は不思議に思った。こいつらは何故、全滅するまで戦ったのだろう。銃撃の途中で自分たちが不利になったのはわかったはずだ。確かにチリと日本は戦争状態だが、彼らは元軍人だとはいえ今は民間人だ。普通は降伏する。
彼らのすぐ後ろには幾つかの手押し車があり、その上には複数個の金色の何かが積まれていた。それらは大きさの違いこそあれ、シルバーキーの船長室で見た不気味な彫像と同じ形をしていた。船長の推測通り、同じようなものが他にもあったのだ。どの彫像も素人目には黄金でできているように見える。連中が渡さないと言っていたのはこれのことだろう。しかし、全滅までして戦うだろうか。
これまで太平洋の各地で日本軍は玉砕してきた。今も己の生命を引き換えにした特攻を行っている。しかしそれは何よりも大切な国や人を守るためだ。
シルバーキーの乗組員にとっては、命を捨ててまで偶然見つけた金を守る理由はない。
ここで叶槻は乗組員の数が少ないことに気づいた。10人しかいない。残りの5人はどこにいるのか?
彼らの来た方角に目を向けた叶槻は、その先に石でできた何かが広がっているのを見た。
それは明らかに人工の建造物だった。
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