3、姉ちゃんに謝る
「姉ちゃん怒ってたよなぁ……」
ソファに腰を預けながら、ひとりぼやいてみる。
あの様子だと一週間は口を利いてもらえないかもしれない。いつもの俺なら余裕で我慢できるんだけど、いまはなんだかそれが無性に辛く感じる。
もっと姉ちゃんを見ていたいし、もっと姉ちゃんと話したい。もっともっと姉ちゃんのことを知りたい。
あれ? なんかずっと姉ちゃんのことばっか考えてるな。
考えるたびに胸がぽかぽかして、身体が熱くなってくるし。
不思議な感覚に戸惑うことばっかだ。
「とりあえず、謝ってこよう」
あれこれ考えてても始まらないので、俺は姉ちゃんの部屋に向かった。
ドアの前に立ち、軽くノックする。
「なぁ姉ちゃん、入ってもいいか?」
「…………」
返事はなし、と。そりゃそうか。
本来ならここで引くべきなんだろうけど、姉ちゃんが言ってくれたんだ。俺の真っすぐなとこが好きだって。
ならここで引き返すのは、逃げるのは俺らしくないよな。
ひとつ頷き、勝手かもとは思いつつもドアを開けた。
室内にいた姉ちゃんはベッドに仰向けになっていて、身じろぎひとつしない。
俺はベッドのそばまで寄ると、頭を下げた。
「姉ちゃん、ごめん。俺、姉ちゃんの嫌がることしちゃったんだよな? だから怒っちゃったんだよな。バカだから、そんなこと考えもしてなくてさ」
「…………」
「俺さ、もっと姉ちゃんのこと知りたいんだ。いっぱい話したいし、一緒にいろんなところに出掛けたりしたい。せっかく姉ちゃんが付き合おうって言ってくれたから。だから……っ!」
「次の休日」
「え?」
「デート、するわよ」
デート? デートって言ったよなこの人。
驚きのあまり口をポカンと開けてたら、姉ちゃんが身を起こした。
まだ顔が赤いままだけど、指摘はしない。嫌がられることだってさっき学んだから。
「あたしも、ごめん」
「え、急にどうしたんだ?」
「さっき叩いちゃったことよ。あたし、あんたのこと見くびってたのかも」
「ど、どういうことだ……?」
「なんでもないわ」
姉ちゃんが遠い目をしたかと思うと、俺の顔を掴んでくる。
そのまま引き寄せられて、おっぱいに押しつけられた。
柔らかくて気持ちがいい……だけどそれより気になることがあって。
姉ちゃんの心臓、すっごく速い……。今の俺みたいだ。
「デートに行くんだから、ちゃんとプランを考えなさいよ」
「それ、俺が考えるの?」
「当たり前じゃない。優介はあたしの、彼氏でしょ?」
顔を上げたら、姉ちゃんが微笑んでいて。
俺の中でやる気が漲ってくる。なんだって出来そうな気がしてきた。
「俺っ、朱莉を満足させられるようなデート考えるから!」
「ふふ、ちょっとだけ楽しみにしてるわ」
「えーっ、そこは楽しみ過ぎて夜も寝れそうにないとか言ってくれてもいいだろ」
「寝不足はお肌の大敵なのよ。だから、ちょっとだけ」
「だったら! 満足しちゃってもう一度行きたいって言わせてやる!」
ふんすと鼻息を鳴らす俺に、姉ちゃんはおかしそうに笑う。
さっきまで感じてた辛さはどっかに吹き飛んで、胸のぽかぽかだけが残ってる。
どうしようもなく心地よくて、それがずっと続けばいいな。
いつしか俺はそんなことを考えるようになっていたんだ。
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