第32話 ダークエルフの趣味は殺人教唆

 俺とペトラさんは風呂を造る事では同意したが、内容では意見が割れた。

 まず、俺の意見としては福祉ダンジョンとして活動するのだから風呂も介護用にしたい。

 ペトラさんは牛乳風呂が楽しめたスーパー銭湯を希望。

 どちらも、ダンジョンポイント(DP)にして2000。


 うーん、普通ならダンジョンマスターである俺の意見が通りそうなもんだけど、色々な弱みを握られてしまったからなあ。

 ここはペトラさんの意見を採用するか。

 イゾルデ程度の高性能ゴーレムがあと二体ほどいれば、寝た切りのお年寄りでもスーパー銭湯に入浴させるのは可能だろうし。

 でも、騎士隊長のトリスタンさんがせっかく王様を説得してくれてるのに、帰ってきたらレジャー施設になってましたじゃな。

 合わせる顔がねえよ。


「あらん、アスカちゃん。あなたが気にする必要はないんじゃなあい?」


 いやいや、普通は気にするって。

 本来であれば、あの時トリスタンさんに殺されてたっておかしくなかったんでしょ?

 彼は命の恩人だ。


「あの時、アスカちゃんが殺されていればあ、文句なしの世界新記録だったのよん。私が仕えたダンジョンマスターだけじゃなくてえ、歴史上でもダントツの短命フニャチンマスターなのう。うーん、ちょっと、惜しいことをしたよねえ」


 いや、惜しいとか言うなし。フニャチンでもねえし。

 ところで、一番最短だったのはどんなダンジョンマスター?

 やっぱり、前回のスライムさん?


「いいえ、オペラ山の中腹に出来たダンジョンのマスターなのよん。種族はベヒーモスなのう。アスカちゃんの記憶で言えばあ、初代ハリウッド版ゴジラに似た巨大モンスターねえ。あれよりちょっと小さいけどう」


 何でそんなスゲーのが最短なの?


「実はねえ、あの人は暗黒神様の側近だったのう。本当なら暗黒神様と一緒に世界に散らばるダンジョン全体を管理するお偉いさん。でもう、当時は魔力回収が上手くいかなくてえ、暗黒神様もお手上げ状態だったのよう。そこで白羽の矢が立ったのがあ、そのベヒーモスちゃんなのん。そしてえ、暗黒神様からオペラ山ダンジョンに行ってくれないかと頼まれた時にい、お子様がまだ中学生で単身赴任する事になったわけよん」


 なんか日本のサラリーマン家庭みたいだな。それで?


「ダンジョンマスターになって一ヶ月。ベヒーモスちゃんは暗黒神様の信頼に応えようとう、精力的にモンスター召喚してたわあ。その数、なんと一万体よう!」


 おいおい、オペラ山って確かこの王都からも遠くないよな。

 ここもヤバかったんじゃねえの?


「大丈夫よう、アスカちゃん。ベヒーモスちゃんのダンジョンは人間に被害を与えることなく終わったわあ。ダンジョンマスターは亡くなり、ダンジョンもすぐに消滅。人間はあそこにダンジョンがあったことも知らないでしょう」


 分からんなあ。どうして死んだの?


「殺されたのう」


 誰に?


「奥様によう」


 へ?

 単身赴任って言ったよな?


「ダンジョンも一ヶ月経過しえ、落ち着いたので一度遊びに来ればと私が奥様をご招待したのう。サプライズだったからあダンジョンマスターには内緒でねえ」


 嫌な予感がプンプンするぜ。

 それで、何で奥さんは旦那さんを殺したの?


「簡単に言えば嫉妬なのよん。ベヒーモスちゃんはモンスターを一万体召喚したんだけどう、すべて同族のメス型モンスターだったのよう。それを見た奥様はハーレムと勘違いしちゃったわけなのう。壮絶なる戦いが三日三晩も続いたわあ。そしてねえ、ついにベヒーモスちゃんは力尽きダンジョンも終わったわけなのう」


 あちゃー、それは奥さんの気持ちも分かるかなあ。しかし、また何で同族のメスを一万体も召喚したんだろう。

 多すぎじゃね?


「当時、ベヒーモスちゃんはレベル900だったわあ。暗黒神様の腹心では最強のお方。だからあ、モンスター召喚もいきなり同族のベヒーモスが選択できたのよう。しかもダンジョンポイントはいきなりの七千万! これはもう楽勝だと一万体召喚したのう」


 うわっ七千万DPとかずりいよ。

 暗黒神も贔屓してたんだな。

 しかし、繰り返すが何でメスばかり?

 半分オスがいればまだ奥さんを宥められたかもしれんのに。

 もしかして、マジもんのハーレムだったとか?


「いいええ、違うわあ。あのダンジョンマスターは超真面目。メスばかりなのは単純にあたしがお願いしたからよう。オスがいるとレイプされそうで怖いって泣いて頼んだのう」


 おい、オカマ。一応確認するけど、その時ペトラさんの種族はベヒーモス?


「いいえ、ハーピー族よう。かわいい半鳥半女のモンスターだったのう」


 ベヒーモスってハーピーを襲ったりするの?


「とんでもないわあ。ベヒーモスはねえ、見かけによらず紳士なのよん」


 じゃあ、何でオスがいるとレイプされそうで怖いとか言ったんだよ?


「そう言えば絶対に面白くなる確信があったからあ」


 うっわー、ダメだこれ。

 確信犯だ。

 可哀想なベヒーモスさん。

 御冥福をお祈りします。


「そんな事より、アスカちゃあん。早くスーパー銭湯の牛乳風呂を出してえ。お姉さん、もう我慢できないわん!」


 ひでえ、そんな事って……


「ナウ!」


 何で英語だ?

 分かった分かった。んで、どこに出す?


「あのシスコン冒険者が寝てた部屋で良いんじゃなあい?」


 まあ、全部で四部屋しかなくて一部屋はトイレ。

 もう一部屋はバーになっちゃったから残りは二部屋。

 一方は寝室にしたいし、残るのはあそこだけだね。


「じゃあ、ペトラさん。昼飯前にちゃちゃっと造ろう。ちょうど2000DP貯まってたし」


「イエス、マイ・エロ・マスター!」


 言い方、そろそろ統一してくれ……

 俺たちは椅子とテーブルのある部屋を後にし、ウィリアムズさんが泊まった部屋に向かう。

 そういや、あの二人はどうしてるんだろ?

 あ、見つけた。

 俺たちが豪華ベッドで寝てた部屋で魔法撃ってた。

 頑張るなあ。


「アスカ殿、ひょっとしてMP回復ポーションを持って来てくれたのですか? ちょうど無くなったとこでした」


 女騎士のブランゲーネさんが爽やかな笑顔でそう言った。

 その後ろではシスコンウィリアムズさんがノビている。

 やべえ、忘れてた。

 彼女たちは地上にダンジョントイレを造るため頑張ってくれてたんだ。

 それなのに俺たちときたら、どうでもいい風呂に2000DPもつぎ込もうとして……

 やめだやめだ、風呂は中止!

 さすがに無理だわ。

 その時、俺の天敵が牙を剥いた。


「ブランゲーネ、聞きなさあい。今からあ、あたし達のご主人様であるこのオッパイスキーマスターがあ、手持ち全てのDPを使って牛乳風呂を出すというのですよ。あたしは止めたのにい、もう無理矢理決められちゃったのよう。言うことを聞かないとう、あたしのアナルに桜島大根を入れると脅されてえ……もちろん、マスターの言うことは絶対。悔しいけど地上トイレは我慢しましょう。ね?」


 うおい、ちょっと待て。

 ブランゲーネさんの顔色が変わったぞ。

 そして、剣を抜きましたよ!


「アスカ殿、それは本当ですか?」


 ひっ、こわい。

 俺は首を横に振る。

 ここは嘘を吐いてでも乗り切りたい。

 ベヒーモスさんのようにはなりたくないから。


「本当よう、ブランゲーネ。疑うのならこのダンジョン特製監視カメラで撮影した動画を見せてあげるわん」


 ちょっ、おい……

 盗撮機能はカメラだけじゃなくビデオもあんのかよ?

 聞いてないよー。

 あ、笑ってやがる、このオカマ性悪ダークエルフめ。

 お前の趣味はダンジョンマスターを殺すことか、この快楽殺人犯め。


「いいえ、違うわんアスカちゃん。あたしの趣味はねえ、殺人教唆よう。うふふふっ」


 何だよそれ。もっと最悪だよ!

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