第31話 牛乳の活用方法

 俺は今、カルーアミルクを作っています。

 場所はダンジョン最奥にある椅子とテーブルのある部屋。

 俺としてはここを福祉ダンジョン管理事務所にしようと思ったのですが……


「ここは『ダンジョンBARペトラ』にするわん。良いでしょう、アスカちゃん? 反対するならあ、ブランゲーネのオッパイで叩きのめしてあげるわようん!」


 オッパイで叩きのめすの?

 ぜひ、体験してみたい。

 でも、おっかないからヤメとこう。シスコンが特に。

 まあ、いいや。ここはオカマダークエルフの言う通りにバーにしようか。

 反対?

 しませんよ。

 だって、このダークエルフ様ったら、昨夜の盗撮写真を引き伸ばして壁に張り付けてるんですから。

 どんな盗撮かって?

 俺が変身して超絶美女になったペトラさんのオッパイを揉もうとしている決定的な証拠写真ですよ。

 ハハハハ、毒舌ダークエルフ様が執拗に俺の事を『エロ』と言ってたのは正しかったわけだ。

 ……はあ、あの壁の写真さえ無ければなあ。

 なんか魔法を使ったみたいで、透明なガラス的な物で塞がれて取れやしねえ。


「あらん、エロマスター。手がお留守よう?」

「申し訳ございません、ペトラ様」


 俺は作業に戻った。

 カルーアミルクはコーヒーリキュールのカルーアと牛乳を合わせたカクテルだ。

 カクテルと言っても別に本格的な道具はいらない。

 コップとかき混ぜるやつがあれば大丈夫。

 あとは、材料。

 リキュールのカルーアと牛乳、そして氷があれば簡単にできる。

 それなのに……

 俺はダークエルフ様のご命令でカクテル道具を一式買わされた。

 ダンジョンポイント(DP)にして100だ。

 100DPですよ、奥さん。

 そりゃあ、バーのマスターが出来るくらいの道具は出てきましたよ?

 カウンターまでついて……

 でも、どうすんの、これ。

 俺は使い方知らねえし。

 でも、服を変えてくれたのは助かった。

 一生パジャマかと思ったけど、今の俺はバーテンダーにふさわしい格好だ。

 白いシャツと黒のパンツ。黒いベストにやはり黒い腰に巻くロングエプロン。

 さあ、バーテンダー石井飛鳥いしいあすかの初仕事。

 飛び切りうまいカルーアミルクを作ろう。

 まず、DPで買ったグラスに氷を入れる。

 氷も買っといた。10DPでした。

 すでにカチ割ってる氷が入った一キロ袋が百個。

 どうすんだ百キロ……

 一瞬、途方に暮れそうになったがご安心ください。

 ダンジョンに飲み込んでもらいました。

 ダンジョンの中は時間も止まる優れもの。

 すげえよ、ダンジョン。

 ついでにダークエルフ様も飲み込んでくれ!


「生き物は飲み込めないわよう。オッパイスキーのアスカちゃん?」


 ハハハハ、新しいニックネーム、ありがとうございます。

 では、カルーアミルクの続きを……

 グラスに氷を入れ、そこにコーヒーリキュールであるカルーアを入れます。

 これが高い。

 カルーア一本5DP。

 ダークエルフ様はあっという間に空にしやがるし……

 だから、探しました。メニューの隅から隅まで。

 そしたら、あったんですよ。

 リキュールセットが。

 カルーア、カシス、カンパリ、各二本ずつ入ったセットが5DPで。

 値段設定のおかしさは突っ込みません。

 ありがとう、ダンジョンを創った暗黒神様。

 よ、太っ腹!


「暗黒神のガラ様は痩せてますわよん?」


 会ったことあんのかい!

 怖いから、これ以上は聞かないようにしよう。

 さて、カルーアを30ミリリットル入れます。

 もちろん、計測して入れますよ。

 目分量で入れたら怒られましたから。

 ダンジョンポイントで出したこのバーのセットにはカクテルの本も付いてきてまして、正確な分量まで記入されてましたので楽勝ですよ。

 このくらい、自分でやれよ……


「あらん、何か良からぬ事を考えてなあい? セクハラ・カイゴちゃん?」


 ニックネームだけじゃなくて、新しい名前まで付けていただいて本当にありがとうございます。

 今日から俺はオッパイスキー・セクハラ・カイゴです。

 さて、次は牛乳を入れます。


「ミルクと言いなさあい! オッパイスキーの癖に生意気ですわよう」


 何で生意気なのかよく分からんが……

 まあ、ご命令とあらば。

 では、ミルクを90ミリリットル入れます。

 そして、箸でかき混ぜれば完成ですっと。


「もう、オッパイスキー・セクハラ・カイゴ男爵ったらあ。マドラーと言いなさあい、マドラーと!」


 貴族になっちゃったよ。

 すげえじゃん、俺。


「いえ、お笑いの方ですよ?」


 俺もそう思った。

 でも、俺、ヒゲ生えてないし。


「エロそうな顔は同系統かとう」


 ちょ、俺ファンなんだぞ。ヒ〇男爵に謝れ!


「ゴメンねえ、山〇ルイ53世」


 何でそこまで知ってんだよ?

 ああ、俺の心を読んだのか。

 ほんと、暗黒神は一番やっちゃいけないダークエルフにやっちゃいけないスキルを与えたよな。


「ほう、そういう事を言いますか。ならばあ、あたしがスキル・読心術で見たことを皆に言いますわよう?」


 まだ、昨日のセクハラのこと言ってんの?

 ここまで、デカデカと引き伸ばした写真はられたんだ。

 俺はもう吹っ切れたぜ!


「……あれは小学校五年生の初夏でしたわあ。四時間目の体育の授業中、担任の響子先生の巨乳が目に焼き付いて離れませんでしたのう。その日の夜、アスカちゃんは響子先生の事を思いながらパンツの中に手を入れてえ……」

「さ、さ、さあ、カルーアミルクができましたよペトラ様。どんどん作りますから飲んでください、お願いします!」

「よろしいわあ」


 もう嫌だ。スキル・読心術。

 うん、忘れよう。

 今は俺渾身のカルーアミルクだ。


「うふふ、これがエロ魔神アスカちゃんが作ったカルーアミルクなのねえ」


 なんかヤバそうな神様になっちゃったよ、俺。

 頼むからもうエロネタやめて。


「うーん、このコーヒーリキュールとやらも美味だけどう、このミルクという飲み物が格別に美味しいのねん」


 へえ、牛乳……じゃなくてミルクが好きなんだ?


「ええ、この香りがもうたまらないわあ」


 ふーん、じゃあ牛乳石鹸でも出そうか? 洗面所にでも置いとけばいい。


「……牛乳石鹸?」


 あれ、知らない?

 手とか体を洗う時に使うやつ。

 牛乳の香りがして汚れも落ちる。

 一石二鳥の石鹸だね。


「素晴らしい。アスカちゃんには後で御褒美をあげなきゃねえ。そうだ。昨日みたいにあたしが踏んであげるわあ」


 いや、せめてオッパイ揉ませ……ゲフンゲフン。

 あぶねえ。この人は俺の考え読むんだった。なるべくエロい事は妄想しないようにしよう。

 今は牛乳石鹸だ。

 でも、体を洗うには風呂が必要だけどな。

 これもトイレと同様ダンジョン拡張になるからDPは高いと思う。


「ねえ、アスカちゃん。風呂って要するにタライにお湯を入れた物でしょう? なら10DPも出せば良いんじゃなあい?」


 いや、それ、風呂とは呼ばないと思う。行水用セット?

 俺はメニューオープンして風呂を調べてみた。

 ダンジョン拡張を押して……あ、あった。

 トイレと同様、俺が知ってる風呂がずらり。

 おおっ、よく行ってたスーパー銭湯もある。

 しかし、ここは福祉ダンジョンにするんだから体が不自由な人でも入れるタイプがいいな。

 車椅子の人でも、寝た切りの人でも入浴できるのは……やっぱりあった。

 このダンジョンのアイテムって人の記憶を読んで作ってるみたいなんだよね。

 俺、テレビで介護用の風呂が特集されたの見てたんだ。

 だから、ワンチャンありじゃね? と、思ってたらありましたよ!

 ああ、あの時見た、温浴効果を高めるバブル装置がついてるのもある。

 いいねえ、これいくら?


「に、2000DPだと!」


 思わず声出た。

 他の介護用の風呂も同じく2000DPだ。

 トイレは300で出来たのに……

 じゃあ、俺んちの風呂でいいや。


「何で俺んちの風呂も2000DPするんだよ! 大雑把すぎじゃね?」


 てことは俺がよく行ってたスーパー銭湯も……

 うん、2000ダンジョンポイントだな。


「うーん、ちょっと高すぎねえ。しばらく風呂は却下だわあ」

「まあ、そうだよなあ。俺のよく行ってたスーパー銭湯にはイベントで牛乳風呂もやってたけど、さすがに2000DPは貧乏人には出せんな」


 自嘲ぎみに呟いた俺にオカマダークエルフが食い付いた。


「エロマスターのアスカちゃん。、そこは詳しく~! ええっい、もどかしい。ならば直接スキル・読心術で。なになに……牛乳風呂とは……なんと、風呂に本当のミルクを直接入れるのですか! そして……裸で浸かるう? なにその天国わあ!」


 リアルで読心術使ってやがる。

 その後、俺の記憶を読み取ったペトラさんは満面の笑みを浮かべてこう言った。


「さあ、アスカちゃん。さっそくミルク風呂を出しましょう。2000DPも惜しくはないわあ!」


 うん、異世界の静ちゃん発見。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る