第28話 ダンジョンに風呂は必要か?

 怒れるシスコンを静めるのは大変だった。




 何事かと地上からクルヴェナルさんが下りて来たほどだ。




「すまん、取り乱した」




「あ、いえいえ。大変ですね……」




 シスコンも。とは口に出しては言わない。




「ところで妹よ。お前が食事を作ると言っていたが何を作るつもりか?」




「もちろん、私の得意料理であるポトフです」




 ドヤ顔で答える女騎士。




 ほう、ポトフか。異世界にもあるのね。




 自信ありげだし、これは期待したい。




「やめておけ」




 ポツリとウィリアムズさんが言った。




 あれ、妹の手料理にシスコンが無反応?




 むしろ、げっそりしてますよ。




「忘れたか、妹よ。お前のポトフを食って親父がどうなったのか」




 死んだとか言わないよね?




「親父は死んだ」




 ええっ、マジで?




 まさか本当だとは。




「……ある意味な」




 どっちやねん!




「親父は料理を見ると吐き気がする体質になったのだ!」




 それってヤバイんじゃね?




「親父はどんどん痩せていき、ついには……」




 うわっ、ガリガリになったのか。可哀想に。




「ついには、目を瞑って食べる方法を編み出した」




 ちょっ、笑うところか、ここ?




 結局、食えるようにはなったのね。




「そして、太った」




 意外と元気そうじゃねえか。




 ガリガリじゃなくてガリガリガリク〇ンの方だった。




 まあ、餓死するよりマシだ。




 しかし、目を瞑ってると食べ過ぎちゃうのかな?




「だからやめておけ。今度こそ死人が出るぞ」




「いやよ、愛する旦那様にポトフを食べさせるのは妻の役目!」




 旦那様じゃないし、妻でもないし。




 しかし、そこまでウィリアムズさんに言わせるポトフとは……




 一度、食べてみたい気はするが、君子危うきに近寄らずの方向でいくか。




「お前は愛する人を親父のようにしたいのか?」




「ううっ……分かった」




 あ、ウィリアムズさんが泣いているぞ。




 俺の事を妹の『愛する人』呼ばわりしてダメージを食らったようだ。




 自業自得だけど哀れだ。




 ちょっ、血の涙が出てるぞ。




 そんな目でこっち見んな、怖いから!




 こうして、ブランゲーネさんが朝食を作るという流れは却下された。




 じゃあ、朝飯はどうしたかって?




  この世界で一番安いパンにしました。




 黒パン、30個入り。3ダンジョンポイント(DP)です。




 4DPの俺のパジャマより安い。




 オーガの腰巻きと同額。




 それなりの不味さなんだろうな。




 飲み物は水で良いとブランゲーネさんは主張したが、なんとか説得できた。




 パンと言えばコーヒー牛乳。




 ここは譲れない。




 瓶入り900ミリリットル、9本セットで5DP。




 以前じいちゃんが御歳暮でもらったやつ。俺も飲んだがうまかった。




 これを黒パンと一緒にみんなに配った。




 小隊長のクルヴェナルさんが上の騎士さん達の分を持って行ってくれて、俺達はイスとテーブルのある部屋でいただいた。




 黒パンがけっこう固かったけど、コーヒー牛乳のおかげでなんとかなったよ。




 みんなも喜んでた。




 一番喜んでたのはブランゲーネさんだ。




 甘いもの好きだもんね。




 さて、朝食も終わったし今日はどうする?




「あらん、日本人が異世界に来て2日も経つのに童貞だなんて良くないわあん。ここは、夫婦の絆を深めるべく子作りをするべきよう。ねえ、ブランゲーネ?」




 はい、却下。




 ブランゲーネさんが真っ赤になってるぞ。




 そして、ウィリアムズさんがもっと真っ赤になってるぞ。




 この話はやめよう。ていうか、異世界転生2日目で脱童貞を成し遂げた奴とかいるのかよ?




「もう、アスカちゃんったらあ。異世界に来て二人も妻を娶ったというのに情けないわあ。はっ、もしやアスカちゃんってばインポテンツ?」




 このダークエルフは相変わらず性格悪い。




「後でカルーアミルクあげるから今は黙っててねペトラさん」 




 オカマはコクコク頭を縦に振った。




 効くなあ、カルーアミルク。




「あなた! これからは食事とトイレと子作り以外はダンジョンポイント(DP)を貯めるため魔法を撃ちまくりますよ。あなたはアイテム召喚でマジックポイント(MP)回復ポーションをお願いします。みんなで頑張りましょう」




 気合い入ってるなあ、ブランゲーネさん。




 お兄さんのウィリアムズさんは死んだ魚みたいな目をしてるけどね。




 もう、俺のこと『あなた』と呼んだり『子作り』とか言うのやめてあげて。




 ウィリアムズさんのヒットポイント(HP)はもうゼロよ。




「さあ、ここからは夫婦の時間。お兄ちゃんはもう帰って!」




 ちょっ、ブランゲーネさん。言い方!




「な、なぜだ妹よ。俺はお前が呼んでいるからと知らされて家から飛んできたのに……」




 嬉しかったんですね。




 妹に頼られるなんて、シスコンにはたまらんでしょうから。




「だって臭いし」




「ぐはっ!」




 ウィリアムズさんが吐血したぞ。




 そして、倒れたーー!




 大丈夫か、シスコン?




 俺に言わせれば、あなたはそんなに臭くない。




 しっかりしろ、傷は浅いぞ。




「そうだ、風呂……ダンジョンに風呂を造ろう!」




 俺は絶対無敵の解決策を提示した。




 福祉ダンジョンには必要不可欠であり、ウィリアムズさんの問題解決にもなる。




 俺だって入りたい。




「じゃあ、さっそく取り掛かろう」




「駄目です!」




 そんな、酷いよブランゲーネさん。




「あと、臭い人は嫌いだから帰って!」




「ぐはっ!」




 またしてもウィリアムズさんが吐血したぞ。




 今度は致命傷か?




「あのう、アスカちゃん? そろそろカルーアミルクを所望したいのねん」




 空気読んでくれ、ペトラさん……

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