第27話 異世界で朝食を

 さあ、朝食の準備だ。

 実は俺、じいちゃんっ子なので朝飯はご飯がいい人間だったのだが、せっかくの異世界なんだからこっちの料理に挑戦したいと思う。

 しかし、俺のスキル・アイテム召喚は開くたびに物が増えてる気がする……

 今や日本の料理だけじゃなく、この国の大抵の料理までメニューにのっているのだ。

 これ、もしかしてダンジョンに来ている人間の記憶とかを読み取ってるんじゃねえだろうな?

 ほんと、不思議な場所だよダンジョンって。

 でも、今は朝飯。


「ウィリアムズさん、この『オクジャガ炒め』って何ですか? 写真がないから分からなくて」

「ああ、これは王都ローエングリンで一番人気のレストラン自慢の料理だな。細かくスライスしたオーク肉とジャガイモを塩とチーズで炒めたものだ」


 へえ、うまそうだな。でも……


「うわっ、高いなあ。20ダンジョンポイント(DP)もする。一人分で」

「俺はDPとやらはよく分からんが、レストランではたしか銀貨20枚だったと記憶する。このチーズってのが高級食材でな。知ってるか?」


 そりゃ知ってますけど。

 異世界では高級食材なのね、チーズ。

 日本でも結構お高い食材だと思うけど、ここまでじゃないよねえ。

 食ってみたいけど、20DPかあ。

 ブランゲーネさんに絶対叱られるな。

 他のを探そう。


「お、これもうまそうな名前。ええっと『王都名物ジャタマター』か。ウィリアムズさん、これは何でしょう?」

「ああ、これも同じレストランの名物スープだな。ジャガイモとタマネギを塩とバターで煮込んであるらしい。知ってるかバター? これも高級食材だ」


 もちろん、知ってますけど。

 まあ、チーズが高級なんだからバターもそうなるよね。

 ちなみに、この料理は10DP。

 一人前でだ。

 スープ一杯でDPが10。ビール48本入り詰め合わせと同額。

 高いわあ。

 こっちの人にチーズフォンデュ食べさせたらひっくり返るんじゃね?

 そういや、メニューにあったな。

 おいくらDPかな?


「チーズフォンデュ食べ放題、お一人様3DP……」


 やすっ!

 そして、食べ放題ってなんだよ食べ放題って。

 追加の注文は誰が取りに来てくれるの?

 スッゲー興味ある。


「なんだ、そのチーズなんたらって?」


 そりゃウィリアムズさんは知らんよな。


「ええっと、チーズフォンデュってのはですね、チーズをおろし金ですりおろしまして、白ワインと一緒に鍋に入れ煮溶かします」

「な、なに! チーズと白ワイン? どちらも高級食材だぞ」

「それからですね、この煮溶かしたチーズ。これに、一口大に切った固めのパンなどをつけて食べる料理です。いろんな具材をチーズと一緒に楽しめますよ」

「聞いた事もない料理だ。もしや、王様しか食べる事を許されない宮廷料理ってやつか?」


 何それ、宮廷料理?

 凄く興味がある。

 まあ、でも今はチーズフォンデュだ。


「いや、そんなたいそうな物じゃないです。食べてみたいですか?」

「ああ、出来れば。でも、高いんだろ?」

「それが、お一人様3DPなんですよねえ。食べ放題で」


 俺の言葉にウィリアムズさんが首を傾げる。


「食べ放題?」


 こっちの世界にはないのか。

 そういや、日本に来た外国人も食べ放題に驚いてたってネットで見たな。

 日本だけの常識なのね。


「食べ放題ってのは文字通りいくらでも食べられるということです。まあ、時間制限があるので永遠にというわけじゃありませんがね。それでもお腹いっぱいにはなれますよ」

「なんという、素晴らしい食事だ。時々、教会がやってる炊き出しのような物なのか」


 違います。

 論より証拠と言うし実際に食べさせてみるか。


「じゃあ、朝食はチーズフォンデュにしましょうか? 上の五人と下の四人。全部で27DPなんで安くすみますしね」


 朝からチーズフォンデュは俺にはちと辛いが、みんなの笑顔が見たいから良しとしよう。


「いいのか? ありがとうアスカ殿! まさかチーズを食べれる日が来るなんて……」


 そこまでの高級品か。

 他のみんなも喜んでくれそうだ。

 ここは福祉ダンジョン。

 みんなが幸せになれる場所。


「ダメれふ!」


 そうそう、ダメに決まってる。

 ┅┅って、ええっ!?

 ダメなの?

 反対したの誰だ?


「ブ、ブランゲーネさん。あのう、お口にあるのは?」


 女騎士のブランゲーネさんが仁王立ち。反対したのは彼女だった。

 寝起きで混乱してるのかな?

 でも、ちゃんと鎧を装着してくれてて助かったよ。

 半裸だとまたウィリアムズさんがシスコン拗らせかねんから。

 それにしても、お口にくわえてるのは電動歯ブラシでは?


「あらん、アスカちゃん。おはよう。電動歯ブラシはあたしが使い方を教えてあげたわん」

「……オカマに戻ってる」


 あの超絶美女はどこにいった?

 俺の目の前にはハードゲイの衣装みたいなビキニアーマー姿のペトラさんがいた。もちろん、股間は超絶モッコリです。

 マジでショックだよ。

 そして、ペトラさんの右手には電動歯ブラシ、左手にはステンレスのコップを持って立っていた。

 ていうか、なんであなたが歯磨きを知ってるわけ?


「いやあねえ。愛するアスカちゃんの事は何だって知ってるわよう」


 ああ、また俺の思考を読んだのね。


「それよりも、あなた!」


 ブランゲーネさんが口角泡を飛ばしてお怒りだよ。

 飛んできた泡は歯磨き粉の匂いだけどさ。


「何で、またDPの無駄遣いをするのですか? 私たち夫婦の夢を叶えるため貯金する話を忘れたのですか!?」


 いや、夫婦じゃないし。あと、その夢はブランゲーネさん、あなただけのものではないかと……


「聞いてますか、あなた?」


 あれ、なんか俺の呼び方『あなた』になってね?


「とにかく、夫婦の邪魔をする者はみな排除です。まず、お兄ちゃんは家に帰って!」

「え、うそ……」


 ウィリアムズさん、涙目になってますよ?

 可哀想だから、もう少し優しくしてあげて。


「それから、あなた!」

「は、はい?」


 やべ、返事しちゃった。


「今後、食事は妻である私が作ります! いいですね?」


 いや、よかねえよ。

 あと、ウィリアムズさん。剣を取りに戻らないで。

 ダークエルフもニヤニヤすんな!


「もう、さすがはあたしが愛するアスカちゃんねえ。異世界に来て二日目でもう妻が二人なんてえ。これ、転生勇者・賢者の中でも新記録じゃなあい~?」


 やかましいわ!

 そんなことより、ウィリアムズさんが剣を抜いて戻って来たぞ。

 こりゃ、いかん。

 殿中でござる、浅野殿!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る