第25話 とあるダークエルフの告白

 私の名前はペトラ。ダンジョンマスター(略してダンマス)の補佐官(秘書兼任)をしています。

 暗黒神ガラ様によってトリックスター&補佐官兼任秘書として創造され、ダンマスの平凡な日常に一つまみの暗黒を届けるため日夜努力しておりました。

 ところがです。

 私が六人目のダンマス補佐官の勤めを終え、ガラ様の元に戻ると叱られたのです!

 納得できません。


「もう、ダメだよペトラちゃん。はやすぎだよー」


 こちら、暗黒神ガラ様です。幼女の姿ですが実際の御歳は、ゲフンゲフン……

 失礼。はて、どこまで話しましたかね?

 そうだ。叱られた所からでした。


「ガラ様、今回は前回より長持ちしましたが?」

「前回のベヒちゃんは最速だよ。ダンジョンの歴史上、不動の世界記録だって評判だよ? 今回はそれに次ぐ二番目の速さ。自慢にはならないよ」


 やれやれ。力を持て余し調子こくダンマスに痛い目を見せ、本来の目的である魔力集めに集中させるのが私の役目なのに……

 ダンジョンを長持ちさせるのは私の仕事ではありません。


「もう、ペトラちゃんが補佐官して長く続いたのはゲスちゃんのダンジョンだけだよ。不思議とゲスちゃんとは気が合ったんだね?」


 ゲスちゃんとはゲスレル様の事です。悪魔タイプのダンジョンマスターで、やはり暗黒神様の側近でした。


「はい、あの御方は人格的に素晴らしいダンマスでした」


 暗黒神ガラ様がゲスちゃんと呼ぶゲスレル様は、歴史上最高の魔力を集めた御方です。

 もう、人間を殺す事が三度の飯より好きな御方。素晴らしいの一言です。

 よっ、ゲスヤロウ。


「いやいや、あの子の残酷な所はボクも気に入ってるんだけどさあ。世界神には歴史上最悪のダンジョンって言われちゃったよ。調子こいて火山二つもダンジョン内に造っちゃったしね。溶岩が外に流れ出て、人間どころか他の動植物皆殺しだよ。本末転倒だよ!」

「はて、何が悪いのでしょう? あの御方は多くの人間を殺し魔力集めに精を出しておられましたが?」


 まあ、ダンジョンの外でも殺してましたけど。


「だから、ダンジョンで魔力を集めるのは人間を含めた生き物たちが将来魔力枯渇現象に苦しまないためだよ? ダンジョン以外でその生き物たちを皆殺しにしたらダメでしょう! もう一度言うけど本末転倒なんだよ」


 難しいものです。

 私はどうすれば良かったのでしょう?


「そもそも、何でベヒちゃんを罠にかけたのよ? 彼はボクの腹心の中でもとりわけ有能。ダンジョンでも真面目に魔力集めに取り組んでたでしょ?」


 暗黒神様がベヒちゃんと呼ぶのは彼女の側近中の側近であるダンジョンマスターのベヒーモスのこと。

 いけ好かない野郎です。


「馬鹿正直な御方を見ると、暗黒神ガラ様に創造されたトリックスターとしてつい意地悪したくなりまして」

「ええっ、ナニよそれ。ボクのせい? じゃあ、最後のスラちゃんは? ペトラちゃんのことが大好きなスライムだったのに可哀想だよ」

「あの、別に最後のダンマスは私が殺したわけではありませんが」

「でも、庇わなかった。だから、同罪ですよ! スラちゃんだけ逃がせば良かったのに」

「いえ、そんな暇もなく攻めこまれまして……あの人間、勇者ではありませんがなかなかの強者でした」


 確かトリスタンと言いましたっけ。あの男とはもう一度対戦したいものです。

 それに、所詮はスライム。ぶっちゃけ、どうでもいい存在でした。


「もう、あなたもヴィオレッタちゃんのように左遷しちゃうよ?」


 ガラ様の言葉を聞いて、私の心と体に衝撃が走ります。

 ヴィオレッタは同期の補佐官。

 人間を殺すたびに涙を流す軟弱者。

 ダンマスからの評判も悪く、ついに人間界にある暗黒神殿で大神官の職についたとか。

 つまりは左遷。

 あんな落ちこぼれと私が同格?

 あり得ませんね。


「次のダンジョンで失敗したら、ペトラちゃんもどっかの国の暗黒神殿で働いてもらうからね!」


 冷酷なガラ様の宣告。ああ、それだけは嫌だ。


「……かしこまりました」


 次は気合いを入れなければ。


「ダンマスの命が最優先だよ?」

「はい」

「ダンマスに頼まれたこと以外は極力何もしないこと」

「そ、それでは、トリックスターとして創造された私の存在意義がなくなります。せめて、悪口を言うくらいは……」

「まあ、そのくらいは良いよ」


 ガラ様、大好きです。


「次のダンマスは異世界の日本から連れてくる人間の男だから」


 ほう、勇者や賢者と同じですか?


「ならばきっと性欲が強そうですね。では、次の私の体はオカマのダークエルフでお願いします」

「性欲が強そうなのにオカマなの?」

「はい。ただし、ベッドの中では超美人ダークエルフに変身するようにお願いします!」

「何でさ?」

「ここはトリックスターとして、あえてギャップを楽しみたいのです」


 それに、オカマは少々無礼を働いても許されるのがデフォルトですからね。

 くくく、オカマのダークエルフに苛められる人間の男。うーん、そそりますねえ。


「分かった。じゃあ、いくよ!」


 暗黒神ガラ様の魔法で私の体はあっという間に変化した。


「あらん、素敵じゃなあい。ありがとう、ガラ様~」

「本当に大丈夫かな?」

「いやあねえ。大丈夫ですわよん」

「オカマだからって、何でも許されるわけじゃないからね? ダンマス苛めちゃダメだよ?」


 ぐっ、ガラ様に見抜かれた。


「で、でもう、前のダンマスのスライム娘みたいにい、踏みつけられるのが大好きな人間もいるかもしれないわあ。今回のダンマスもう、その可能性があるのよん!」


 なくても調教します。


「うーん、そういうことなら良いけどねえ。でも、絶対に無理矢理はダメなんだよ?」

「ぜ、善処しますわあ」


 私の返答に暗黒神様はため息を吐くとこう言った。


「ちょっと不安は残るけど、まあ、頑張って。今回のダンマスは世界神の肝煎りの案件だから。くれぐれも邪魔しないでね?」


 なんと、世界神の息がかかった人間ですか!

 イジリがいがありますね。


「かしこまりました」


 こうして、暗黒神ガラ様との会談は終了した。

 今回のダンマスにはより長く生きてもらい、ジワジワといじっていきましょう。うふふ、セクハラなんて良いかもしれませんね。くくく、腕がなります!


 こうして、私は王宮前ダンジョンのマスターに仕える補佐官として来たわけですが……

 思ってた以上に楽しめそうなダンマスです。

 しかも、童貞でした。

 犯す日が楽しみです。


 私の名前はペトラ。

 暗黒神ガラ様に創造されたトリックスター。

 秩序を破り物語を展開する者。

 善と悪、破壊と生産、賢者と愚者。異なる二面性を持つ人材。ついでに言えばいたずら好き。

 それが私。

 あと、お酒はカルーアミルクが大好きです。

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