第22話 福祉施設にベッドは欠かせません

 やあ、みんな。

 俺です。

 寝て起きたらダンジョンマスターになってた石井アスカです。

 恥ずかしながらまだ生きてます。

 怒り狂った赤鬼から救ってくれたのは桃太郎ならぬブランゲーネさんの一言でした。


「お兄ちゃん、いい加減にして。アスカ殿はお兄ちゃんの義理の弟になってくれるかもしれない人なんだよ!」


 舜殺でしたわ。

 剣をダラリとぶら下げてブツブツ呟いているウィリアムズさん。


「俺の義理の弟……つまり、ブランたんが結婚? 有り得ない。俺は許さない。ブランたんは一生俺が面倒を見ると決めたのに……俺の義理の弟? なにそれ美味しいの? 有り得ない。あ、もしかしてブランたん以外にも妹がいたとか。親父の不倫でできた娘とか。いや、ないな。親父はお袋一筋だった。じゃあ、義理の弟……それってブランたんが結婚するってことか? いや、それはない。だってブランたんは一生俺が面倒見るって……」


 こ、怖いよウィリアムズさん。

 シスコンもここまでいくと哀れになる。

 マジで病気じゃね?

 早めに話題を変えよう。


「はい、みんな。この嘘つきダークエルフはスルーしてね。ろくなこと言わないから。それよりも食事の続きにしましょう。ウィリアムズさんも元気出して。全部冗談なんですから」


 不満そうなブランゲーネさんも甘味のハニートースト実食を再開してくれた。

 オカマの性悪ダークエルフには追加のカルーアミルクを出して黙らせた。

 ようやく剣を鞘に納めてくれたウィリアムズさんも魚フライ定食の食事を再開中。

 ちょっと虚ろな目をしてるのが気になるけど……

 で、でも、気にせずに食べよう。

 俺もメニューから焼き肉のタレを出してオーク肉ステーキの味付けをし、何とか完食できたよ。

 ありがとう、日本食〇の晩餐〇焼き肉のタレ。

 君のおかげで強敵オークを倒せた。

 どうやら、他のみんなも完食してくれたようだ。


「ふう、御馳走様でした。こんな夢のような物を食べさせてもらえて、アスカ殿には感謝の言葉もございません。お兄ちゃんはどうだった?」

「ああ、この魚フライは実にうまかったぞ、ブランゲーネよ。アスカ殿には本当に感謝する。だが、妹はやらん!」

「も、もちろん」


 シスコンの言葉に同意するも今度は女騎士さんの視線が痛いぜ。

 早めに地上トイレを造れるよう頑張るから勘弁して。


「本当に美味しいわん。ねえ、アスカちゃん。おかわりをお願いするわあ。その代わりお姉さんの体はアスカちゃんの物にしてあげるからあ」


 空になったカルーアミルクのコップを振って俺に注文するオカマのダークエルフ。

 こっちはぶれない。


「もうだめ。あとは寝るんだからそのくらいで」

「くくく、あらん、アスカちゃんったら気付かないでごめんなさあい。なるほどう、酒で酔わせて無抵抗の女を犯すより、意識がしっかりある女を無理やり犯す方が好みなのねえ? 分かったわあ。レイプ大好きアスカちゃんのお望みの女を演じて見せるわよん。聞きましたか、女騎士ブランゲーネ。あなたもか弱い女を演じなさいよう?」

「はい、先輩。一生懸命に抵抗して喜んでもらえるよう頑張ります」


 ああ、何故こうなる?

 やっと終わったと思ったのに……

 もう、こうなったらこれしかない。

 俺は立ち上がって剣を抜きそうな赤鬼ウィリアムズさんに提案した。


「良かったら、今日は泊まっていってくださいね」

「え、良いのか?」

「もちろん。妹さんも今日は騎士の仕事でここを徹夜で警備してくれますので不安でしょう。お兄さんのウィリアムズさんがいてくれると心強いのでは? ベッドも用意しますから」

「あ、ありがとう、アスカ殿!」


 ガッチリと握手。

 誤解も解けて本当に良かったよ。


「アッーーーー!」


 やめろやめろ。言い方に気を付けろ性悪ダークエルフ!

 ていうか、そりゃお前だろうが。


「ど、どうしました、ペトラ先輩?」


 当然ながらブランゲーネさんに日本のホ〇ネタは分からない。

 いらんこと言うなよ、毒舌オカマ秘書。


「分かりませんかあ、ブランゲーネ。あたしたちは今、壮大な恋愛叙事詩の始まりを目撃しようとしているのですよう!」


 それ以上言ったら……

 もう、二度と酒は出さんぞ?


「こ、こ、こ、これは違うわよんアスカちゃん」


 お、珍しく動揺してやがる。

 よしよし、そのまま黙ってたら晩酌用のカルーアミルクを出してやる。なんなら梅酒も付けよう。


「イエス、マイ・モーホー・マスター」


 言い方!

 そして、繰り返すがそりゃお前な。

 もう、そのまま無言を貫けよ。

 性悪ダークエルフが頷いた。


「ペトラ先輩、壮大な恋愛叙事詩に兄とアスカ殿は何の関係があるのですか?」

「何にも関係ありません、ブランゲーネさん。このダークエルフは酔っ払っているのであまり関わらないようにしてね」

「は、はあ……」


 俺が代わりに答えといた。

 ペトラさんはちゃんと無言を保っている。

 よしよし、じゃあ、次の仕事をこなすとしよう。

 そう、ベッドルームだ。

 トイレを造った時に気付いたのだが……


 ダンジョン内に何かを造る時、ダンジョンもそれにあわせて大きく変形してくれる。

 だから、ベッドを単体で出すよりは部屋ごとベッドルームにした方がいい。

 目標はベッドが十台並んでた部屋を持つ某福祉施設。

 ベッドごとのスペースがゆったりあってプライバシーもある程度確保されている。

 もちろん、電動介護用ベッドだ。

 福祉ダンジョンを目指すならこれは欲しい。

 俺はみんなに話した。これからやろうとしている事を。


「絶対に反対です、アスカ殿!」


 ブランゲーネさん?

 な、何故あなたが……


「だって、王家の許可はまだおりてません! 仮にすぐにおりても、人集めは時間がかかります。ベッドはそれからで良いのでは?」


 なるほど、一理ある。


「それよりも、地上にトイレを造ることを優先してください! もし、それが無理なら私と結婚してください!」


 ああ、そっちね。

 ブランゲーネさんはダンジョントイレにゾッコンだった。

 仕方ない。


「でも、ベッドはいるでしょ? 上にいる騎士さんたちも仮眠を取りたいかもしれないし」

「我々は地面で寝ることに慣れております。兄も冒険者の端くれ。夜営は手慣れたものです。アスカ殿とペトラ先輩のベッドだけで大丈夫ですよ。いや、お二人なので一台ですみますね。うん、それがいい。経済的です」


 いや、さすがにお兄さんは可哀想だよ。


「じゃあ、二台出して一台はペトラさん。もう一台は俺とウィリアムズさんでどう?」


 おい、オカマダークエルフ。ニヤニヤすんな。

 そんな関係じゃないから。

 なんか財布の紐をブランゲーネさんに握られてしまったから苦肉の策だ。

 俺だって、男と一緒のベッドなんて本当は嫌だからな。


「兄に気を使わずとも……ダンジョンポイントがもったいない」

「まあまあ、そう言わずに」


 さて、どこに出そう。

 出入口に一番近い部屋はトイレ。

 一番遠い部屋、つまり、ここにはイスとテーブルをおいてある。

 残り二つ。

 うん、両方に一台ずつでいいか。

 一応、あの性悪ダークエルフも心は女性だから別の部屋が良かろう。


「じゃあ、ベッドを別の部屋に召喚してくるよ」

「アスカ殿、私もお供します」

「俺も見たいな。ダンジョンマスターの生召喚」

「ええ、良いですよ」


 ペトラさんは黙ってついてきた。

 まずは魔法を撃ちまくってもらったこの部屋だ。

 ここにはペトラさん用ベッドを出す。

 シングルベッドは50DPだ。

 俺は迷わずボタンを押す。

 ピンク色の魔法陣が現れベッドが出てきた。

 うん、日本でよく見た普通のやつだね。

 ちょっともったいなかったか……

 まあ、いいや。

 さて、次は部屋を変えて俺とウィリアムズさんが寝るベッドを出そう。


「じゃあ、ウィリアムズさん。俺たちが寝るだけですから少し大きいだけのベッドで良いですよね?」

「ああ、ダンジョンに来てベッドで寝られるなんて、それだけで夢のようだからな。文句は言わんさ」


 よし、なら安いダブルベッドにしよう。これは70DPだな。

 でも、もったいねえなあ。

 どうせなら、超豪華なやつが出てこねえかな。

 高級ホテルにあるような……

 そんな事を思いながら俺はボタンを押した。

 ピンク色の魔方陣が再び現れる。

 だが、今度はデカイ!

 六畳間の部屋一面に広がっている。

 そして、出てきたのはキングサイズを超えるベッド。

 しかも、天蓋付き。

 まあ、それはいい。

 何故、全てがピンクなんだ?

 これじゃあ、お姫様ベッドじゃん。


「ここにアスカ殿と兄が……」


 絶句しちゃったよ、ブランゲーネさんが。


「ダンジョンはこれが普通なのか?」


 違いますよウィリアムズさん。俺がうっかり余計なこと考えたせいです。


「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 うん、ペトラさん。今回は言い訳しない。

 俺がバカだった。


「あらん、俺がホモだったの間違いでは?」


 お前、そのうちLGBTの人に叱られるぞ?


「BLTバーガーは嫌いだから平気よん、アスカちゃん」


 ベーコンレタスバーガーの事じゃねえよ。

 ていうか、なぜ知ってる?

 ペトラさん、もしかして転生者か?

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