第18話 シャワー付きトイレ完成
ダンジョンポイント(DP)はたまった。
あとはトイレを作るのみ。
勢い込んでメニュー画面を開いた俺に毒舌秘書のペトラさんが珍しくマトモな意見を言ってきた。
「ねえねえ、アスカちゃん。トイレ造りは一応ダンジョン拡張の一種よう。ダンジョン拡張は多少の地揺れが起こる可能性もあるのん。だからあ、上の人間達にも警告を与えた方が良いかもしれないわん」
確かにそうだな。
ふつうに日本のトイレ工事だって騒音は出る。
ましてや、異世界のダンジョンだ。
何が起こるか分からない。
「じゃあ、ブランゲーネさん。申し訳ないですが、上の騎士さん達にトイレを造るんで振動があるかもと伝えてもらえますかね?」
「はい、すぐに。喜んで!」
女騎士のブランゲーネさんが階段を駆け上がる。
なんか嬉しそうだったな。
まあ、いいや。
実は俺たちは今、地上への出入口付近にいた。
この狭いダンジョンにトイレを造るなら何処だろうと考えた結果、出入口付近が一番良いのではと思ったわけ。
だから、この部屋。
ダンジョンの階段を下りてすぐの部屋に決めたのだ。
「おお、ダンジョン拡張をこの目で見れるとは!」
ブランゲーネさんと小隊長のクルヴェナルさんが下りてきた。
話を聞くとダンジョン拡張は広く知られたイベントらしい。
「ただの地下迷宮だったのに、ダンジョン拡張の後で急に草原が出来たり湿地帯になったりするんだ。今までどうしてこうなったのか不思議だったが、おかげで理解したよ。ダンジョンマスターの仕業だったんだな!」
へえ、そうなんだ。草原とか湿地帯に変えられるとか、すげえなダンジョン。
あの……なぜペトラさんが胸を張ってますの?
「うふふ、あたしが以前お仕えしたダンジョンマスターはダンジョン内に火山を造られた方だったのよん」
はあ?
火山とか造れんのかよ。ダンジョンってスゴすぎ。
「もしや、ゲスレルのダンジョンか!」
ペトラさんの話を聞いていたら、突然クルヴェナルさんが叫んだ。
「あそこは最難関のダンジョンだった。勇者ウィリアム・テル様によって制覇されるまで多くの人間が命を落としたものだ」
やべ、ちょっとシリアスになってきた。クルヴェナルさんとペトラさんが喧嘩にならなきゃいいけど……
「ふふふ、あのダンジョンほど効率的に命を刈り取れる場所は他に無かったわあ。暗黒神様もさぞやお喜びだったでしょうねえ。愚かな人間がゴミ虫のように死んでいってえ」
あちゃー、このオカマ毒舌ダークエルフが余計な事を言いやがった。
ほら見ろ。
怒ったクルヴェナルさんが剣に手を伸ばしそうじゃねえか。
他の皆さんも不機嫌な顔してるよ。
ここはフォローしておこう。
「でもさ、結局は勇者に殺されたよね?」
「そうだけどう、あの勇者は卑怯なのよん。遠くから弓を使って暗殺するなんて。もう、お姉さんプンプンよう!」
「でも死んだ。ダンジョンは制覇され、二度と再び魔力を吸収し世界のバランスを保つ仕事は出来なくなった。人間と敵対したせいで」
「ぐぬぬぬ……」
まあ、暗黒神って神様が簡単にダンジョンを創れるのなら、一つ二つダンジョンが制覇されても痛くないんだろうけどね。
それでも効率は良くないと思う。
「だから、俺は人間に味方して人間と共にダンジョンの役割を果たしたい。ペトラさんも俺の秘書になったからには人間との付き合いも大切にしてくれ」
彼女は少しだけ頷いてくれたよ。
高飛車お姉様系のオカマが、消沈して弱々しくなるのには少し哀れみを感じちゃうね。そもそも、この人は暗黒神に創られたダークエルフらしいから、敵対的なのは仕方ないもかもしれないけどね。
ペトラさんがおとなしく引き下がってくれたおかげで、クルヴェナルさんもブランゲーネさんもウィリアムズさんも顔付きが穏やかになった。
よし、みんな仲良くしよう。いさかいは俺のダンジョンに相応しくない。
ここは福祉ダンジョン。
どんな人も幸せになれる場所にするんだ。
そのためには、まずトイレだね。
「じゃあ、皆さん。これからダンジョン拡張をします。良いですね?」
みんなが、ペトラさんも含め同意してくれた。
ではやるぞ。
俺はメニュー画面を開きスキルのダンジョン拡張を押した。
幾つかの項目、罠の設置とか部屋の拡張をすっ飛ばしてトイレを押す。
すると、さらに幾つかの項目。
「何だこりゃ?」
俺の目の前には映画館のトイレとか市役所のトイレとか俺んちのトイレとかの名前が並ぶ。
ひょっとして、俺が知ってるトイレを真似して造ってくれるのだろうか?
ならば、俺が選ぶのは決まっている。
知ってるトイレで最高の設備だった某大学病院のトイレだ。
多目的トイレもあり障害者やお年寄り妊婦さんにも優しい造り。
もちろん、一般の人用トイレもある。
当然シャワー付きだ。温水洗浄便座と言った方が分かりやすいか。
気がかりは、この部屋が六畳間しかないこと。
でもまあ一つでもできれば御の字だよ。
俺は大学病院のトイレを押した。
ゴ、ゴ、ゴ、ゴ……
地鳴りがする。
同時に地震だ!
震度3くらいの振動が続く。
そして、ダンジョンが動いた。
壁や床、天井までもがうごめく。
まるで、生き物だ。
みるみる部屋が広がり、今度はピンク色のデカイ魔法陣が現れる。
地面から次々と出てくる見慣れた日本のトイレ。
そして、粘土のようにグニャリと曲がり変化していく床と壁と天井。全てが日本で見た大学病院のトイレと同じになった。
しきり用の壁もしっかりある。
ああ、男性用と女性用、そして、多目的トイレに別れた。
何これ、完璧に再現してんじゃん!
すべてが終わった時、俺は感動の涙を流していたよ。
これがダンジョンの力か!
そんな俺にペトラさんが言った。
「素晴らしいですわん。これなら人間がこのトイレ目当てに大勢来るわよう。さあ、アスカちゃん。この横に小型の火山も造りましょうよん。愚かなトイレ目当ての人間を皆殺しよう!」
いや、俺も死ぬわ。
感動が台無しだよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます