第16話 異世界トイレ事情

 俺は異世界のトイレ事情をブランゲーネさんに聞いてみた。


「ほとんどの家は穴を深く掘ってその上にトイレを設置してますね。転生者である勇者様のお一人が、水洗なるトイレを提唱されましたが……どうもうまくいかなかったようです」

「へえ、そうなんですか。じゃあ、汲み取りも大変ですね。江戸時代のように肥やしにでもしてるのかな?」

「ええっ、日本では人間の排泄物を汲み取って農作業に使ってたのですか?」

「ええ、一昔前は。こちらでは違うようですね」

「はい、肥やしは馬や牛の排泄物と土を混ぜ発酵させてから使います。トイレにはスライムを使いますね」


 きたよ、異世界。

 スライムだって。

 ブランゲーネさんが教えてくれたけど、スライムは相当に便利なモンスターだそうな。

 排泄物を食べてくれるだけじゃなく消臭効果もあるとか。

 それどころか、良い匂いを撒き散らす変種もいるらしい。


「ニオイ付きスライムはけっこう高値で取り引きされます。冒険者ギルドの依頼でもそこそこの稼ぎになるから人気だって兄が言ってました」


 ブランゲーネさんのお兄さんは冒険者だ。


「へえ、女騎士ちゃん。そのスライムはどんな匂いがするのかお姉さんに教えてえ?」


 おっと、珍しく毒舌オカマ秘書のペトラさんがブランゲーネさんに話しかけてる。

 興味ないことには本当に無関心なのに。

 香りに敏感なのはやっぱり女性なんだね。心は……


「多いのは花の香りですね。中にはワインの香りもあるとか」

「それは素晴らしいわん! ねえ、アスカちゃん。ぜひ我らがダンジョンにもワインの香りスライムを!」


 酒好きにはたまらんのだろうな。

 でも、俺は嫌だよ。トイレからワインの香りなんて。


「アスカちゃん、ご再考を!」


 無理、無理。

 それに高いらしいじゃん。


「ふふっ、もう忘れたのう? アスカちゃんはダンジョンマスターなのよん。ワインの香り付きスライムをモンスター召喚すれば良いだけの話よん」

「ペトラさんこそ忘れたのか? 俺のモンスター召喚、ゴーレムだけなんだけど」

「ぐうっ、忘れてたわん。アスカちゃんの下方向の超絶っぷりを!」


 よし、もうペトラさんには酒を出してやらん。


「ああんっ、お姉さんの失言を許してえん。あたしの愛するイシダカイゴ様~」

「イシイアスカな。あんた絶対にわざとだよな?」

「アスカちゃんが異世界に来てやりたいことは介護! アスカちゃんの野望はオムツ替え! でも、召喚ゴーレムは何故かラブドール! それがあたしのマスター。28歳独身童貞の転生者ようん。異世界にようこそアスカちゃーん」

「よし、ペトラさんはクビだ。暗黒神の所に行って代わりの秘書をよこすよう伝えてくれ。もちろん、福祉の仕事に理解があるマトモな人材を要求する!」

「も、もう、アスカちゃんったら冗談よう。分かったわあ。お姉さんの体がお望みなんでしょう? どの穴もアスカちゃんに差し出すわあ!」

「ちょ、待て。ブラを外すな! パンツ脱いでキモいのくっつけるな! そして、俺の股間に触るんじゃねえーー!」


 一通りのセクハラを受けたあと、俺は前言撤回してようやく解放されたよ。

 うん、あまりのキモさに動転した。なんか負けた気がする。

 可哀想にブランゲーネさんも顔真っ赤にしてるよ。

 もう、この性悪ダークエルフは放っておこう。

 俺はブランゲーネさんにスライムについて気になった事を聞いてみた。


「ところで、スライムって逃げないんですか?」

「食料が豊富にあれば逃げません。無くなると……」


 そう、問題は餌が少ないとトイレから這い出てくるんだって!

 ブランゲーネさんの顔が引き攣っている。

 そりゃ考えただけで怖い。


 スライムに悪気はないだろうけど……

 つまり、便秘は人間だけじゃなくスライムにも困った症状なのだ。

 一通り、異世界トイレ事情を聞いた俺は決意を固めた。

 やっぱり、シャワー付きトイレが欲しい。


 実は先ほどメニュー画面を開きスキル・ダンジョン拡張からトイレ増設・改修がないか確認したら……

 あったんですよ!

 でも、ダンジョンポイント(DP)にして300でした。

 高い。


 でも、届かないものじゃない。

 ウイスキーが20DPだったことを考えると、むしろ安いかもしれん。

 今のDPはなんか増えてて110。

 期待が持てる数字だ。

 そうなると方法は一つ。

 オカマ毒舌ダークエルフに魔法を使ってもらうしかない。


「他に好きな人がいるのでお断りしますわあ」


 いきなりペトラさんに頭を下げられた。

 しかも、フラれてるし。


「いや、魔法を使ってよペトラさん」

「お酒以外の目的でえ、魔法を使うのはちょっと」


 目的はそれかよ。


「それにお姉さんの魔力はほぼ空よん。一晩ほど休まないと回復できないわあ」


 なんだ、それなら仕方ないな。

 俺のガッカリした表情を見て哀れに感じたのか、ブランゲーネさんが良いアイデアを出してくれた。


「魔法をたくさん使うだけで良いなら私の兄に協力を要請しましょうか? 兄は生活魔法しか使えませんが、マジックポイント(MP)は150もあるんです」


 ええっマジですか?

 このダンジョンにピッタリな人材じゃん。

 勧誘してえ。

 でも、報酬はおいくら万円?

 これは確認しとかないと。


「冒険者ってことはまず冒険者ギルドに依頼とかするんでしょ? お金はいくら必要かな?」

「ああ、私が個人的にお願いするから大丈夫ですよ」

「さすがに、タダは申し訳ない」


 すると、ブランゲーネさんは少し考えてから笑顔でこう言った。


「それならお酒はどうでしょう? アスカ殿が出す珍しいお酒を一本あげれば喜ぶと思います。兄はお酒好きですから」


 なんて素晴らしい!

 日本の酒でつながる異世界の輪。

 もう、トイレ作るDPがたまったら好きなだけお酒を出すよ。


「却下ですわあ、女騎士ちゃん。日本のお酒はあたしだけの物なのよん!」

「違うわ、この性悪ダークエルフ。ブランゲーネさん、お酒はたっぷり差し上げますのでお兄さんに来てもらうこと出来ますかね?」

「はい、すぐに上にいる先輩たちに頼んできます」

「ダメだと言うのにい、この童貞意地悪スカトロ大好きエロマスターのアスカちゃんめえ!」


 うん、そろそろ黙ろうかペトラさん。


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