第12話 騎士隊長の実力

 やべえよ。

 騎士隊長のトリスタンさんがマジでやべえよ。

 俺が喰らった火魔法を真正面から受けてしまった。

 しかも、トリスタンさんは白い金属鎧。

 熱伝導が半端ねえよ。

 あれは熱い。マジで熱い。

 でも……

 トリスタンさんは涼しい顔してますけど?

 火が直撃したのに何でだろ。


「有り得ん! なぜ平気なのだ?」


 騎士のクルヴェナルさんが俺の気持ちを代弁してくれた。

 そこなのよ。火魔法が直撃したのに少しも反応しない。

 俺はあんなに熱かったのに!

 ずるいそ、トリスタンさん。


「忘れたかクルヴェナルよ。我が鎧はラクリモサ。耐熱の魔法が施されたマジックメイルだ」


 へえ、魔法の鎧か。ゲームの世界だよなあ、異世界って。

 そんなことを思っていると、クルヴェナルさんが焦っているようだった。

 そして、顔中から冷や汗を滴らせてこう言った。


「まるで愛する者を失った日のように、どんな高熱に囲まれても心と体を冷やすあの魔法鎧ラクリモサ。しかし、あれは我らが隊長トリスタン様の鎧だ。なぜ、ドッペルゲンガーの貴様が……あっ隊長を殺して奪ったとか?」

「クルヴェナル。お前、もういい加減にしろよ。そろそろ本気出すぞ?」


 ほんの数秒、トリスタンさんとクルヴェナルさんが見つめ合った。

 次の瞬間、俺は信じられないものを目撃する。

 何かって?

 土下座ですよ土下座!

 もちろん、クルヴェナルさんの。

 こんな流れるような美しい土下座を俺は見たことない。


「すいませんでした!」


 額ををダンジョンの床に擦り付けながら詫びる騎士ってのも哀愁があるね。


「いいよ、お前の勘違いにはもう慣れた。まったく、優秀だが真面目すぎ。それがお前さんの欠点だな。あっ、後ろのお前らもいいからな」

「さ、さーせんした!」


 おっと、いつの間にか後ろの騎士さんも土下座してら。

 クルヴェナルさん入れて全部で五人の土下座は迫力ある。

 そして、ここまで恐れられているトリスタンさんがちょっと怖い。


 後で聞いたが、実はこの国には三つの騎士隊が存在するとか。

 最初が白騎士隊。次が聖騎士隊。最後が黒騎士隊だ。

 トリスタンさんは最初の白騎士隊の隊長らしい。


 それぞれ役割があるらしく、白騎士隊は一番規模が大きく王都の守護を担当。

 王宮の警備をはじめ、貴族街や商人街そして平民街の治安維持を担当しているとか。

 聖騎士隊は一番規模が小さく各神殿の警備と幹部聖職者のボディーガード。

 黒騎士隊は王都以外の王家が所持する都市の治安維持を担当しているらしい。


 王宮前広場に出来た俺のダンジョンはモロ白騎士隊のテリトリーだ。

 お偉いさんでしかも人格者であるトリスタンさんとつながりが出来たのは、本当にラッキーだったよ。


「いやあ、すまんなアスカ殿。私の部下たちが失礼をした」

「いえいえ、ここは一応ダンジョンですから。皆さんの勘違いは仕方ないかと」

「そう言ってくれると助かるよ」


 俺たちが和解の握手をしてると、トリスタンさんの部下のクルヴェナルさんが不思議そうに聞いてきた。

 ちなみに、この人は白騎士隊の小隊長で凄腕の剣士と評判みたい。

 切りつけられなくて助かったよ。


「トリスタン隊長、そちらの方を先ほどダンジョンマスターだとおっしゃっていましたよね? ですが……私には人間に見えるのですが?」

「ああ、人間のアスカ殿だ」

「それはすみません。私の聞き間違いだったようです」

「アスカ殿は人間であり、新しく出来たこのダンジョンのマスターでもある」

「は、はあ……」


 クルヴェナルさんが戸惑ってます。

 小隊の他の騎士さんたちも首を捻ってます。

 そりゃそうでしょう。

 だって、この異世界ではダンジョンマスターは魔王と同義語だってトリスタンさんも言ってたし。


「今は分からずとも良い。こちらのアスカ殿は我々と敵対しないダンジョンマスターだ。いや、むしろ利益をもたらしてくれる新しいダンジョンを造ってくれるかもしれないお方だ。粗相のないようにな」

「は、はい。かしこまりました。アスカ殿、ご無礼ひらにご容赦を」

「いえいえ、とんでもない。これからはよろしくお願いしますね」


 俺たちは和解した。

 ついでに俺のダンジョン福祉施設化計画について話すと喜んでくれた。

 なんでも、ここにいる騎士さんはみな平民出身で、働けなくなった身寄りのないお年寄りや孤児たちの行く末が気になっていたんだそうだ。


「ちょうど良い。私はこれから王宮へ行きこのダンジョンについて報告しなければならん。その留守の間、お前たちでこのダンジョンを守ってくれんか?」

「そういうことならば、一命に代えましても!」


 トリスタンさんの要望にクルヴェナルさんが快く応じてくれた。

 ありがてえ。

 これで俺のダンジョンはひとまず安泰だね。


「だが、その前に王への献上品が必要。そのためには魔法をダンジョン内で使用しなければならん」

「は、はあ……」


 あ、これ、よく分かってねえな。

 まあ、ダンジョンポイント(DP)の仕組みとか説明されなきゃ理解できんよね。

 こんな時こそ毒舌オカマ秘書のダークエルフの出番でしょ。


 あれ、そういや全然見てねえな。

 いつも、俺の思考を読んではからかってくるのに。

 俺はキョロキョロとダンジョンを探したよ。

 はい、ペトラさんは元の部屋にいました。

 テーブルの上に横たわって。

 もう、完全に熟睡中です。

 どうりで静かなはずですわ。

 この秘書、クビにできんもんか。

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