第11話 ヤバイぞ、トリスタンさん

 俺たちはその後、王様への献上品にも手を出してしまった。

 もちろん、オカマ毒舌秘書と騎士隊長の大酒飲みコンビが手を出したので俺のせいではない。

 飲んべえ二人を止められなかった。この点でのみ罪があると言われれば罪があるのだろう。

 でも、こんな化け物に注意とか無理ですわ。


 魔法使いなんですよ?

 加えて、二人とも剣を持ってるし。

 魔法剣士ってやつですわ。

 対する俺は普通の陰キャですよ、陰キャ。

 命だいじに。

 これが異世界でダンジョンマスターになった俺のモットーです。


「この梅酒とやらは飲みやすいわねん。甘くてフルーツの風味があってまるでジュースみたいよん。これなら、あたしのような女性や子供でも気軽に飲めるわあ。うーん、こんな素敵なお酒があったなんてお姉さん驚きよう。長年生きてきて、まだ未知なる味と出会えて幸せだわあ。ねえ、アスカちゃん。ご褒美に、あとであたしの足の裏をなめさせてあげる!」


 おい、言い方。

 そして、子供に飲ませんな。

 飲みやすいけどアルコール度数は高いからな。


 そして、女性にも飲みやすい的なことを言ってるがお前は女性じゃねえ! あと、ビールを何十本も飲んだあとに言われても共感はできんぞ。

 そして、オッサンの足の裏をなめるのはご褒美じゃねえ。拷問だ。

 それにしても、ペトラさんの年はいくつだ?

 見た目は四十代かなと思ってたけど、ダークエルフはファンタジーでは長寿の種族。実際はかなり上なのかな。


「あらん、女性の年を探ろうなんて! アスカちゃんはジェントルマン失格よう。罰としてあたしの足の裏をなめてもらうわよう!」


 いや、どっちやねん。

 ペトラさんの足も裏はご褒美なのか? それとも罰なのか? いや、もちろん後者なんだけどね。

 そして、俺はジェントルマンじゃなくてダンジョンマスターな。

 どっかの暗黒神のせいで。

 まあ、このオカマ性悪ダークエルフのペトラさんが足の裏をなめさせる性癖を持っているのは理解したよ。


「うむ、こちらのウイスキーは酒精が強いな。香り豊かで甘味もある。ワインでは味わえない未知の酒だ。これは本当に素晴らしい」


 おっと、トリスタンさんがストレートでウイスキーをグビグビ飲んで何か言ってる。

 もちろん、コップなんか無いのでラッパ飲みだ。

 キ〇ンが出している富士〇麓。あれ、アルコール度数が結構なかったっけ?

 俺は水や炭酸水で割らないと絶対に無理。

 異世界じゃあ、これが普通なんだろうか?


 王様とかもこのレベルだったりして……

 とにかく、この人たちが飲み終えるのを待とう。

 現実は辛く厳しい。

 もはやビールは跡形もなく、梅酒はペトラさんが制覇。

 ウイスキーはトリスタンさんがまもなく飲み干します。

 あっ、たった今飲み干しました。


「さあ、アスカちゃん。次のお酒をくださいな」

「おお、まだあるのか! アスカ殿、次はもっと酒精が強いものがいいな」

「まだ飲めるの? それにもうありませんよ!」


 マジでこいつら肝臓が強すぎだろ。

 あのウイスキーよりアルコール度数が上な酒とかウォッカしか思い浮かばねえ。

 そんなことより、どうするんだよこれから……


「さて、お二人とも忘れてませんか。王様への献上品をどうしましょうか?」


 俺の言葉に二人が真面目な顔で答えた。


「たしかに、アスカちゃんの野望達成には王への貢ぎ物が必要ねえ。ちょっとイケメン騎士ちゃん。さっさと貢ぎ物を持って王宮へ行くのよん」


 それがねえから困ってんの。


「うむ、少し飲み足りないが王への報告も騎士の務め。そろそろ切り上げて帰るとするか。おや、アスカ殿。ここに置いていた献上品が見当たらんが?」


 うん、全部飲んじゃいましたよ。


「いやあん、アスカちゃん。あたしの知らない間に手をつけたのう? あたしだけじゃあ満足できずお酒にも手を出すとはいけない童貞君ねえ。ダメよう、そんなことしちゃあ」

「なに、それは良くないぞアスカ殿。女性も酒もホドホドが一番だ」

「いやいや、出してないから! むしろ、お二人が全部飲んだんでしょうが!」


 二人の手元には梅酒とウイスキーの空きビンが。

 もちろん、ビールの空き缶は無数にある。

 結構でかいテーブルなのに一面空き缶で埋まってますからね。


「やや、これはいったい?」

「記憶が飛んで理解に苦しむわあ」


 恐るべし酔っ払い。こういうのを大虎って言うんだっけ? でも、暴れてる訳じゃないから、ただの大酒飲みか。

 あっ!

 おい、酔っぱらいオカマダークエルフ。梅酒の空きビンをこっちに寄せるな。

 トリスタンさんも真似してウイスキーの空きビンをこっちに押さないで。

 とにかくだ……


「また、魔法を撃ってもらえます?」


 俺はメニューオープンして手持ちのダンジョンポイント(DP)を確認する。

 あ、やっぱり増えてる。

 ゼロだったのに10になってた。

 さっきペトラさんがビールを冷やすのに氷魔法使ってたもんね。

 それに時間も結構たったから、レベルの高いトリスタンさんから魔力を吸収したのかも。

 ていうか、俺よりこの人たちの方がダンジョンマスターに相応しくね?

 色々、愚痴は言いたいけどグッと我慢する俺。


「今、手持ちのDPが10なんで、あと25あれば予定してた献上用の酒と交換できますね」

「おお、そうか。ならばすぐに撃とう!」

「そうすれば次なる未知の酒にありつけるのねん……腕が鳴るわあ」

「いや、今度こそ献上用だからね。もう試飲は終わったから」


 不満そうなオッサンは無視して俺はトリスタンさんに提案する。


「ここはもうイスとテーブル出して狭くなったんで、魔法を撃つなら他の部屋に行きませんか?」

「うむ、異存はない」

「アスカちゃんの指示に従うわあ」


 俺たち三人は立ち上がると部屋を出て通路に向かう。

 先頭は俺。

 狭いダンジョンなので次の部屋まですぐだ。

 でも、そこには障害が待ち構えていた。

 トリスタンさんによく似た鎧姿の男たちが何人かいたのだ。

 おそらくは騎士。

 みんな剣を構えている。


「来ました、小隊長!」

「えっ、でも、人間?」

「騙されるな! ダンジョンでは何が起きても不思議ではない」


 騎士さんたちの会話は明らかにこちらを敵視してるもの。

 やべえぞ!

 ビックリした俺は一瞬逃げ腰になった。

 それがいけなかったのだろう。


「あれは人型モンスターだ。おそらくはホブゴブリン。魔法を放て!」


 小隊長と呼ばれた騎士さんの声が響く。

 だ、誰がホブゴブリンやねん。

 せめてヴァンパイアとかにして。

 いや、そもそもモンスターじゃねえし。

 いきなりその攻撃的な発言はひどいよ。

 え、ちょ、待って。

 本気?

 見れば、さっきペトラさんやトリスタンさんが魔法を撃った時と同じ雰囲気だ。


「我が内なるマナよ、火の玉となりて敵を燃やせ。イグニス!」

「アンギャーーーー!」


 飛んできた一発の火魔法。野球ボールくらいの火の玉が俺のパジャマに引火する。


「アチ、アチ、アチーー!」


 思わずダンジョンの床を転げ回る俺。

 やべえ、マジで熱い。

 そんな中でも聞き取れるペトラさんの魔法詠唱。


「我が内なるマナよ、アスカちゃんを凍らせてえ。凍えよ雫。アルゲオ・ロス!」


 ペトラさんの詠唱。次の瞬間、冷気が俺を包んであっという間に炎が消えた。

 おお、ありがとう!

 さすが俺の秘書。やるときはやる……

 って、今度は寒い。

 おい、震えるほど寒いぞ。


「ええい、もう一度火魔法を放て!」


 俺が立ち上がったのを見た騎士さんが更なる攻撃を命じた。


「待て、クルヴェナル!」


 その時、俺の後ろにいたトリスタンさんの静止の声。

 どうやら知り合いみたいだ。

 でも、今は火が欲しかった。


「トリスタン隊長ですか?」

「そうだ、クルヴェナル」


 良かった、何とかなりそう。


「いや、偽物だ。ダンジョンには人間そっくりに化けるドッペルゲンガーというモンスターがいる。多分こいつはそれだ。じゃなければそこのホブゴブリンと一緒にいる説明がつかん」

「おい、このアスカ殿はダンジョンマスターだ」

「ダ、ダンジョンマスターだと! やっぱり、こいつはトリスタン隊長に化けたドッペルゲンガーだ。もう一度火魔法を放て!」


 何で今、俺がダンジョンマスターだって言うかな?

 やべえ、今度はトリスタンさんがピンチだ。


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