第8話 使えるだけで得意じゃねえよ

 「これで……終わり! プライス、大丈夫!?」

 「ああ、なんとかな。……ったく、気持ち良さそうに寝てるぜ」


 アザレンカが、街にいた最後の一匹のホワイトウルフを討伐したと同時に。

 俺はようやく、ホワイトウルフに首を噛まれた騎士の回復を終わらせることが出来た。

 騎士は今、礼も言うことなく爆睡している。

 ……王国騎士団に大金を請求してやろうかな?


 王国騎士団のトップである騎士王の親父に、恩着せがましい奴だとか嫌味を言われそうなので、もちろんそんなことはしないが。


 「マズい……魔力切れ起こしそうだ……頭痛い……」

 「あわわっ! ほ、ほら! 僕の魔力吸っていいよ!」


 回復魔法が使えるというだけで、回復魔法が得意でも無いのに重傷者の回復なんてやったせいか、魔力切れを起こしかけている俺は頭通に襲われる。

 そんな俺を見かねたアザレンカは手を差し出す。


 俺達は、魔力回復に魔力回復のポーションを持つということはしない。

 アザレンカは、人間離れした無尽蔵の魔力量と驚異的な速さで魔力が回復するので、ポーションが必要ない。


 そして俺はアザレンカがいるので、ポーションが必要ない。

 アザレンカから魔力を吸い取らせて貰って回復するからだ。


 「わ、悪い……ア、アブソープション……」


 アザレンカの手を握り、吸収魔法アブソープションを使う。

 こんな魔法を使うのは俺ぐらいだ。

 そもそも、他人から魔力を吸うとかマナー違反だし。


 あくまで、俺とアザレンカが幼馴染で旅を共にするパーティーメンバーだから許されるわけであって、他の人間には使えない。

 なんなら、実の家族にこの魔法を使って魔力回復をした経験もない。


 そもそも、魔力を吸われる人間が相当な魔力量の持ち主じゃないと、今度は吸われた人間が魔力切れ起こすからな。

 どこで使う場面があるんだ? とこの魔法を覚えた時にはバカにされたもんだよ。


 「ふぅ……ありがとうアザレンカ。もう手を離してくれていい」

 「良かった! 元気になって! ……で、元気になって貰ったところ悪いんだけど……」

 「……悪いんだけど?」

 「街の人の回復もお願いしていいかな? 近くに仮設の救護所があるみたいなんだよね……」

 「……え?」






 ◇






 「おい! いつまで待たせるんだ!」

 「うるせえ! 何回も言ってるだろ! 回復魔法が使えるだけで、俺は回復魔法が得意なわけじゃねえんだよ! 文句あんなら王国魔導士団のところへ行ってこい! 無料のこことは違って、有料だろうけどな!」


 俺とアザレンカは、酒場から少し離れた所に有志で集まったこの街にいる新米冒険者達が作った仮設の救護所に来ていた。

 ええ、はい。

 当たり前のように回復要員として駆り出されてます。


 しかも、勇者と共に旅してくれる人間が回復要員になるなら、そいつの治療を受けたいと大行列です。

 お陰で、長時間待たされている人から俺がクレームを受けました。


 「後、何人ぐらいだ!? というか、他の奴らは!?」

 「ごめん、プライス! みんな、魔力切れ寸前だって……五十人はいないから、頑張れ!」

 「新米どもめ……」


 なんか、人減らねえな……と思ってたら、他の回復要員の奴らは全滅かよ。

 新米冒険者に期待すること自体が間違いだろと言われれば、確かにそうだが。


 「ハッハッハ。いやあ……大変ですなぁ? 勇者アザレンカ? そしてプライス殿?」

 「……はい、回復終わりです。お大事に。次の人どうぞ」

 「無視するな! 無礼だろ!」


 なんか突然変な奴から話しかけられたので、無視したら怒鳴りつけられたけど、これも無視でいいだろ。

 俺、怒られるようなこと何もしてないし。


 どっかの金くれなきゃ助けないよ? って魔法使いの集団に所属している魔法使いとは違って、無料でホワイトウルフ討伐して、無料で街の人間の回復もやってるんだから。


 「この……お前みたいな落ちこぼれが良い気に……」

 「まあまあ、王国魔導士団は何もしてないんだから少し黙ったら?」

 「……ノバ様がそう言うのなら」


 無視されたぐらいでヒートアップしている魔法使いを黙らせたノバと呼ばれる緑髪の女性がニコニコと笑いながら、俺を見る。


 うげっ……ノバって、この街の……ラウンドフォレストの領主、グリーン・ラウンドフォレストの娘、ノバ・ラウンドフォレストかよ……。


 また面倒臭い奴が、面倒臭い奴を護衛にして俺達の元へ来てしまったな。

 ノバが来ると、大抵面倒な頼みをされるから嫌なんだよな。


 しかも、護衛に引き連れてきた魔法使いってホルツだろ。

 お袋の腰巾着……じゃなくて部下の男の息子だ。

 王都にいた頃から、騎士王と大賢者の間に産まれた息子のクセに、騎士にも魔法使いにもなれなそうな落ちこぼれって俺をバカにしてきた奴らの一人。


 当然、俺は好きじゃない。

 しかもこの男、バカにしていた俺がアザレンカと女王様に指名されて同行者となったことが気に食わないのか何かと突っかかってくる。


 「後、どれくらい掛かりそう?」

 「回復魔法が得意な魔法使いが、無料で街の人間の回復をやってくれるんなら、すぐに話を聞けるけどな?」

 「じゃあ、用件だけ。これが終わったら、アザレンカと一緒に屋敷へ来て。それじゃ、待ってるね。ほら、行くよホルツ。あんまり王国魔導士団の人間を護衛にしてると、お金が沢山かかって困っちゃうし」


 そう言い残すと、ノバはホルツと一緒に領主の屋敷がある方向へと歩いていった。


 ……え? 街の人間の回復は、俺一人でやれってこと?

 あ、あんまりだ……。

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