第7話 泥酔騎士

 「よし……アザレンカ。ホワイトウルフは約五十匹……最低でも二十五匹は討伐しろよ?」


 聖剣を抜いたことで、今までに無いほど力が溢れているせいなのか、自分でも驚くぐらいの大口を叩いていた。

 アザレンカはそんな俺を見て、笑っている。


 「プライスこそ、ホワイトウルフを討伐するのに夢中になって、逃げ遅れた人を助けるの忘れないでよ?」

 「ははっ、それで街の奴らが怪我したらキャロに怒られそうだな」


 ホワイトウルフという難敵が群れで街を襲っているという状況の中でも、俺達二人は軽口を叩くほどには落ち着いていた。

 

 ホワイトウルフ達は、そんな俺達を見て自分達が舐められていると感じたのか。

 一斉に襲い掛かってきた。

 

 俺達二人という獲物を逃さない……いや、ここで二人とも喰い殺すという意志で統一されたホワイトウルフの群れが襲い掛かってくる光景は圧巻であり、圧力を感じる。

 

 「街の人もだけど、プライスも怪我しないでよ?」

 「アザレンカもな。まあ、もしも怪我をした場合は、俺の回復魔法で何とかしてやるよ。じゃあ……討伐開始だ!」


 ホワイトウルフの群れを迎え撃つように、俺達二人も二手に分かれてホワイトウルフ達に攻撃を開始する。

 俺は、群れの左側を。

 アザレンカは、群れの右側を。


 「グルルァ!!!」

 「ウガァ!!!」


 おっと……いきなり二匹も飛び掛かってきやがった。

 頭が良いって言っても、所詮は狼型モンスターの中では……ってだけだな。

 ホワイトウルフも。


 ザシュ……ジュッ……。


 聖剣で斬られたホワイトウルフは、あっという間にただの肉塊と化した。


 おお……聖剣の切れ味凄すぎるな。

 自分で言うのもあれだが、聖剣が選んだ人間が聖剣を使うとここまでの威力を発揮するのか。

 この調子なら、俺がホワイトウルフ討伐で死んだり、致命傷レベルの怪我を負うことは無いな。


 さて……問題は逃げ遅れた街の奴らだ。


 ラウンドフォレストの街には、たまにモンスターが入って来てしまうことがあるのだが、その時はこの街に金を稼ぎに来ている冒険者が、この街の住民の代わりに討伐してくれている。


 しかし今は違う。

 この街の住民の代わりに、目の前のモンスターを討伐してくれる冒険者などいない。

 いや……違うな。


 キャロから聞いた情報が正しいのなら、討伐しようとした冒険者はいたが、全員歯が立たなくて逃げたか、戦える状態では無くなったかのどちらかだろう。


 ……というかこの街に駐在している騎士と魔法使いが無償で助けに来いよな。

 街の住民が困っているから助ける。

 それがお前らの仕事だろうが。


 ザシュッ、スパッ、グシャッ。


 「逃げ遅れた人はいないですか!? ホワイトウルフの群れが僕達に夢中になっている間に、早くここから逃げて下さい! 誰もいないですかー!? 大丈夫ですかー!?」


 アザレンカは逃げ遅れた人間に向けて、大きな声で逃げろと指示しながら、ホワイトウルフを次々と討伐していく。

 アザレンカの剣技は祖父である先代勇者のマルク仕込みの剣技。

 使える剣を与えればここまでやれるのは当然だろう。


 それにしても……本当に来ねえのな。

 この街の騎士と魔法使いは。

 頼まれてないから来ないとか居る意味ねえだろ……と思っていた時だった。


 「ウィーッ……ヒック。なんだぁ……? この騒ぎはぁ……? だぁれもいなくなったと思ったら思ったら犬っころが沢山いるぞぉ……? ウィーッ……ヒック」


 酒場で酔い潰れて寝ていた騎士だろうか。

 騒ぎを聞きつけたのか、それとも店に誰もいないことを不思議に思ったのかは分からないが、泥酔状態で出て来た。

 おいおいおい……マジかよ。

 フラッフラじゃねえか……。


 「おい! 店から出て来んな! ホワイトウルフの群れがいるんだぞ! 逃げられる状態でも無さそうだし、店で隠れてろ!」

 「ヒック……うぉぉい! 貴様ぁ! 王家に仕える騎士様に冒険者ごときがなんて言葉遣いだぁ!? 罰として死刑にしてやる! ウィーッ……ヒック」

 「今はそんな冗談を言っている場合じゃ……って、おい!? バカ、後ろだ!」

 「……ヒック。あぁん? ……ぎゃあああ!!!」


 泥酔していた騎士に、店で隠れているように忠告したが……遅かった。

 泥酔騎士は、背後から飛び掛かってきたホワイトウルフに、首を噛まれてしまった。


 「チッ……アザレンカ! 俺はもうホワイトウルフを二十五匹討伐したから、残りのホワイトウルフは任せていいか!? 騎士が一人、やられた!」

 「えっ!? 嘘!? えーと……ホワイトウルフの残りは……うん! イケそう!」

 「頼んだ!」


 残りのホワイトウルフ討伐はアザレンカに任せ、俺は首を噛まれた騎士の元へ急ぐ。


 「邪魔だ! どけ! この害獣が!」


 行く手を阻むように、ホワイトウルフ達は俺に容赦なく襲い掛かってくる。

 だが、聖剣の前に為す術もないといった感じで肉塊になっていく。


 「大丈夫か!? ……ヒール!」

 「ううっ……うう……」


 首を噛まれた騎士の元へ辿り着いた俺は、騎士にヒール……回復魔法をかける。

 クソッ……キャロにあれ程言われたのに……。

 貴族出身の騎士に怪我なんかさせてしまったら、この街の人間が莫大な金を請求されるって……。


 俺は何をやっているんだと悔やみながら、重傷の騎士の治療を続けるのだった。

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