XX日目
第33話 未来
『シュュュュュュートォォォォォ! 日本、先制点! 決めたのは――ハヤト選手だぁぁぁぁ!』
高く太陽が昇った日曜日。
都会から離れた街の商店街にある家電量販店のテレビが、現在行われているサッカーの国際試合を中継していた。
日本は強豪国を相手に挑む。
ここ最近はどこを相手にしても負け続けており、今回も負け戦同然とも言われる試合であった。
それ故、メディアの注目度は低い。
今回中継しているテレビ局は、ローカル局であるほどに。
されど、今、普段はあまりスポーツに興味がなくても、大人も子供も交じって、それを見ようとテレビの前に足を止めていた。
理由は試合後半、ひとりの新人選手が加わったことで流れが変わってきたからでもある。
最初は子供一人だけだった。そこから子供が次々に増え、気になった大人も足を止め。いつしか人の数はどんどんと多くなり、シュートが決まった時には大きな半円を描くほどになっていた。
その先頭。テレビの目の前の特等席には、一番最初にやって来ていた幼い子供が一瞬も目を逸らすことなく、釘付けになって試合を見ている。
その手にはところどころ土で汚れたサッカーボール。
サッカー少年のこの子は、これから何処かで練習をする予定なのだろう。
「やった! ハヤト決まった!」
大人たちが低い声で「おー」と選手をたたえて拍手をしている。そんな大人たちよりも先に、そして最も大きな声を出して、少年はボールを持った両手を上げて飛び跳ねたりと、まるで自分がシュートを決めたかのように全身で喜びを現した。
「そうだね! かっこよかった!」
少年の隣には、少しだけ遅れてきた白い肌の幼い少女。長い髪をたなびかせ、肌に溶け込むような真っ白のワンピースを着た彼女もまた喜び、少年とハイタッチする。
「ハヤト選手、いつ見てもかっこいいなぁ」
「おれもかっこいいでしょ! ね、みーちゃん!」
みーちゃんと呼ばれる少女は、ニッコリとほほ笑み少年を見る。
丸い目が細くなってもなお、少女は可愛らしい。
「うふふ。よーくんもかっこいいよ。よーくん、サッカー好きだもんね」
「えっへん! だっておれ、ハヤトみたいになるんだもん!」
照れもなく、当たり前だと言わんばかりによーくんと呼ばれた少年は胸を張ったその直後、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。
『試合終了ー! 日本、強豪国相手に初勝利です!』
日本はハヤトの得点により、勝利を掴み取った。
「ハヤトすげー! おれ、ぜったいハヤトといっしょにサッカーやる!」
目を輝かせてて、少女に言う。プロサッカー選手であるハヤトと共にサッカーをするということに対して、少女は無理だとそ否定することはしなかった。
「きっとできるよ。よーくん、ハヤト選手とどっかでつながっていそうだもん」
「つながる?」
「うん。なんとなくね、そんなきがするの」
「うーん……? よくわかんないけど、いっしょにやるから! そのときはみーちゃんもきてね!」
「うん!」
子供の他愛ない会話だ。
周りの大人たちは微笑ましくその様子を見ていた。
『ここでハヤト選手にインタビューです。お疲れさまでした。素晴らしい活躍でしたね! この喜び、誰に伝えたいですか?』
試合が終わると、特別インタビューが始まった。もちろん主役は勝利の決め手となる得点を決めたハヤトだ。マイクを向けられた彼は、汗を袖で拭いながら答える。
『まずは、親友に……高校のときに亡くなってしまったんですけど。彼に伝えたいです。しっかり約束を果たしたよって……ありがとうございました』
汗ではないものも流したハヤトは、それ以上のインタビューを受け付けずに画面からはけていった。
「俺もサッカーまたやるよ。待ってろ、親友」
インタビューを見ていた少年は、子供とは思えないほどの思いを小さく口にした。
「ね、そろそろサッカーしにいこう? おしえてくれるんでしょ?」
「あ! そうだった! いこうか、みーちゃん!」
少年少女は二人揃ってパタパタと足音を立てながら、未来へと進んでいった。
了
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